8月の頭に行なったデータサイエンティスト育成講座の中で、データサイエンティストにとって重要なスキルは3つあり、その3つを併存させることの重要性について説明しました。その3つのスキルとは以下の通りでした。
1. プログラミング
2. 数学/統計学
3. コミュニケーション
この話をするとよく聞かれる質問が、「なぜ併存が必要なのか」ということです。人間とは社会的な生き物であり、一人の人間が全てのことをうまくこなすことはできないし、だからこそチームを組んで、一人では到底なし得ない素晴らしいことを成し遂げることができます。したがって、こうした疑問を特に経営に携わる方が持つことは当然だと思います。プログラマーと統計学者とプロジェクトマネージャーがいて、彼らがチームを組めば良いじゃないかと聞かれるわけです。
前回の投稿でも説明した一つの要員として、そうした役割分担をした場合に生じる組織的亀裂の話をしました。つまり、プログラマーがデータ労働者になると、あまりにも組織内でのビジビリティが低い割にかなり大変な労働を強いることになるので、割に合わないためにやめてしまったりすることが多いということです。
そうしたマイナス面の話に加えて、もう少しプラス面の話をすると、一人の人間が上記のスキルを併存させることの相乗効果は足し算ではなく、掛け算になるイメージです。つまり3+3+3=9ではなく、3X3X3=27くらいのアウトプットができる人材になるというケースが多いです。例えば、私はアップルでも次のようなシチュエーションを目の当たりにしていました。
Jはコミュニケーション能力が高く、上司や経営陣からもよく好かれるプロジェクトマネージャーです。彼がある時ミーティングでVPからとある機能のエラー率が高いような気がするが、一体どれくらいのエラーがあるのか、また原因は何なのかを知りたいという要望を受けました。Jは優秀なプロジェクトマネージャーなので、すぐに対策チームを立ち上げ、どんなデータが存在するかをエンジニアにヒアリングしデータ抽出を依頼し、どうすれば異常検知をできるか統計の専門家を引き連れ、またフロントエンドの開発者にダッシュボードの作成を依頼し約1ヶ月後にエグゼクティブに対してエラーの発生頻度と原因を発表しました。発表は大成功で、Jの株も上がりました。
ところが、喜びもつかの間、同じVPが今度は処理速度についても、同じようなことが知りたいと言い始めました。Jはまた手柄を立てるチャンスだと、同じエンジニアと統計学者とフロントエンド開発者に声をかけたところ、皆Jの依頼を無視しました。彼らは先月、Jに引っ張り回されたおかげで、自分たちの本来の業務が全く進まず、夜を徹して作業しなければ行けなかったので疲れ切っていました。Jがほとほと困り果てていたところに、H(私ではありません)というデータサイエンティストがやってきて、「そういうことなら手伝うよ」というと、その場でターミナルを立ち上げるといくつかのコマンドを走らせ、図表を何枚か作成し、問題となっているボトルネックのコードを特定して、誰に頼めば直してくれそうかまでをJに教えると、何事もなかったかのように立ち去って行きました。
このように熟練したデータサイエンティストがいると、Jが3人の優秀な従業員を1ヶ月間燃え尽きる直前まで働いてもらって得られたのと同じくらいの情報が、優秀なデータサイエンティストはその場で一瞬にして解決してしまったケースが実際にありました。このことからも、スキルの併存がどれだけプラスに働くかを物語っていると思います。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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