アマゾン開発部隊がWeWorkに入居する理由 IT大企業の活用はここまで来た
シリコンバレーから最先端のAI戦略や技術を日本企業に導入する仕事をしている、AIビジネスデザインカンパニー、パロアルトインサイトCEOの石角友愛です。
私の会社はデータサイエンティストを200人ほどネットワーク化してプロジェクトを動かしていますが、開発チームやアドバイザーチームはシリコンバレーをはじめとするアメリカ各地にいます。
各チームではリモートワークが当たり前ですし、実際ほとんどの人が沖縄でも、ニューヨークでも、好きなところから仕事をしています。こうなると、「チームが仕事をする場所」としてのオフィスは、ほとんど必要ありません。しかし、ホワイトボードを使って打ち合わせをするとき、クライアント企業とのミーティングのとき(これが一番多いのですが)などに、やはりハブ(活動拠点)が必要です。
そこで私たちはコワーキングスペースを拠点としています。なかでも一番気に入っているのが、日本にも先日上陸した「WeWork」です。
約1年前、アマゾンの研究開発部隊(ハードウェア専門チーム)の「Lab126」がシリコンバレー近郊のサンノゼ市ダウンタウンにあるWeWorkオフィスの一部をフロア借りしたという事実は、シリコンバレーのローカルニュースでちょっとした話題になりました。
彼らは、KindleやAmazon Echo、Fireタブレット、Dashボタンなどを生み出した優秀なチームです。弊社も同じオフィスを使うこともあり、しばしばLab126の人とエレベーターで出会います。ビルの8階は全てLab126が借り切っていて、そのフロア面積は1万4000スクエアフィート(約1300平方メートル)、そしてもう1フロア借りる予定があり、その際には140人ほどのLab126の社員が収容できるそうです。アマゾンはアグレッシブに各地展開をしており、バンクーバーでもWeWorkと2年のリース契約をしたと報道されています。一切待たずに7万6000スクエアフィート分のオフィススペースを一気に確保できるのはアマゾンのようなスピードを重視する会社にとっては意味のあることなのでしょう(しかし、後で述べるイノベーション増幅装置としての戦略があるため、WeWorkは全スペースをアマゾンにリースすることを断り、全体の8割だけをアマゾンにリースすることで合意したそうです)。
その他アメリカ企業の事例では、マイクロソフトが有名です。2016年末の段階で、300人の社員(営業チームの7割)に、ニューヨーク・マンハッタンのWeWorkオフィスへのアクセスを与え、スタートアップ業界とのコラボレーションを図る計画を実施、その結果社員の満足度が92%にまで上昇したということです。その他、不動産プラットフォーム大手のRedfinの本社や、HBO(テレビ局)のシアトル支社では、WeWorkを拠点としています。
WeWork全体の売上の約30%が社員数1000人以上の大企業のリース収入によるもので、2016年から2017年にかけて大企業のWeWork化は5倍ほどに進んでいるとの報道もあります。
一方、WeWorkの競合であるAlley社は、米大手携帯キャリアのベライゾンと提携発表したことが話題になりました。この提携でベライゾンの副社長は、異業種とのネットワーキングに対する期待を「この提携の本当の価値は起業家たちをベライゾンの社員に会わせることだ。発明はベライゾンの外で起こっており、そのトレンドの一部になりたい 」と語りました。
コワーキングスペースは、いまや大企業がイノベーションの促進剤として活用する存在になりました。実際にアメリカでヘビーユーザーとして使っている私の目から見た「WeWorkの良さ」はこんなところです。
まず、WeWorkで私が好きなところはコミュニティマネージャー(受付デスクに座っていて、いろいろなサポートをしてくれる人たち)の質の高さです。みんな明るくて、名前を覚えてくれていて、カップケーキなどの差し入れもしてくれます。
突然頭痛が襲って来たときに頭痛薬なども常備してあり、アスピリンかイブプロフェン、どっちがいい? とすぐに聞いてきてくれます。またクライアントが来た時の対応の感じの良さも商談にプラスです(ちなみにお茶汲みなどは自分でやり、マグカップも自分でキッチンまで戻します)。
また、オフィスの壁はガラス張りです。オフィスの隣人が誰かもわかっていて、とてもオープンな環境です。仕切りで隔離されていて、顔が見えない環境ではありません。もちろん、オープンさを好まない人もいると思いますし、特別防音加工されていないので音が気になる人もいると思います。しかし、私はこのオープンさが気に入っています。
例えば先日、私が仕事をしていたら「iPhoneの充電器ちょっと貸してくれない?」と隣人がノックしてきました。後で分かったことですが、彼は隣人ではなく、普段はサンフランシスコ のWeWorkを利用していて、たまたまミーティングでそのオフィスに来ていただけでした。そこで15分ほど「どんな仕事してるの?」「アップルをやめて起業したんだ」というような会話をして、そこからエンジニアを紹介してもらったりと仕事に結びつきました。
また、以前私が使っていた別のコワーキングスペースでは、サンフランシスコに本社を構えるIT企業(Uber、Lyft、Postmatesなど)がシリコンバレー地域のオフィスとして利用していたため、そのような会社のうち何社かと契約に繋がったこともあります。似たような職種の人が集まっていることと、オープンさを重視したオフィスのデザインのメリットがよくわかる一例です。
WeWorkの価値を高めているもう1つのポイントが、会議室の予約システムと連動した、入居者向けのWeWorkコミュニティアプリです。その使いやすさゆえに、世界中のWeWorkers(と入居者たちは呼んでいます)が掲示板で各々に自分の会社の課題や質問をなげかけています。
例えば、あるワシントンDCの弁護士事務所の経営者が、掲示板に「誰かいいフォトグラファー紹介して」と書くと、「この人がおすすめだよ」という答えがすぐに返ってきます。「みんなどのウェブ会議システム使ってる?」と聞くと、世界中のユーザーが返事を書いたりもします。
すぐに大きなイノベーションを生むわけではなくても、まずはコミュニケーションを図ることが重要なのです。このアプリによって、別の拠点のWeWorkersともつながれて、それが将来の新しい仕事やイノベーションにつながっていく。そういった顧客体験になるようなデザインがハードな部分(オフィスデザイン)とソフトな部分(アプリUI)で意図的になされているのです。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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