日経新聞「アマゾンでの売上高3カ月で倍に AIで価格を最適化 リアルタイムマーケティングの驚異(上)」が掲載されました。
リアルタイムマーケティングの驚異(上)
顧客が店舗に入ったかどうか。どの商品を手に取ったのか。あるいは、ライバル店は同じ商品をいくらで販売しているのか。ネット上のデータと、現実世界での行動やデータなどを一元的に把握して、リアルタイム(即時)に適切なマーケティング施策を打ち出す――。こうした特徴を持つ「リアルタイムマーケティング」が人工知能(AI)などのテクノロジーにより大きく進化している。いち早くリアルタイムマーケティングを実践する先進企業の取り組みを追った。
ドラッグストア「みんなのお薬」を展開するエルフィード(東京・中野)は、リアルタイムマーケティングに取り組み始めて、わずか3カ月で売り上げを2倍の1億円に、利益率も同様に2倍の10%に高めた。
エルフィードは2年半前に医薬品販売事業に参入した。東京・中野に店舗を構えているが、主戦場はネット通販である。自社ECサイトに加えて、大手ECモール「Amazon.co.jp」の「Amazonマーケットプレイス」にも商品を出品している。
事業を始めた当初は、販売手数料などがかからず利益率が高い、自社のECサイトを事業の柱に据える方針だった。ところが、ECサイトの運営に不可欠な「SEO(検索エンジン最適化)対策は効果が出るまで時間がかかる。事業開始後、2~3カ月は売り上げが目標値に届かず、(自社ECサイトを事業の柱にするのは)厳しいと判断した」とエルフィードCTO(最高技術責任者)の渡部嘉之氏は振り返る。
一方でAmazon.co.jp経由では商品が売れ始めていた。「(事業の成果を出すために)スピードを重視していたため、まずはいける(効果が出やすい)ところから攻めていこう」(渡部氏)と考え、注力する場をAmazon.co.jpへと移した。
最初の戦略は、とにかく他社より1円でも安く売る、というものだった。仕入れ値を下げ、梱包の工夫で配送料を切り詰めることで、販売価格を下げる努力をした。エルフィードが取り扱うナショナルブランドの場合、商品自体で競合と差異化を図ることはできない。そこで値下げをするわけだが、エルフィードの場合は、そこにある”工夫”があった。
利用者がAmazon.co.jpの商品ページを訪れた際、Amazon.co.jp自身が取り扱わない商品の場合は、マーケットプレイスに出店する企業のうち、最も「優先度」が高い企業の商品が、最初の購入候補として表示される。渡部氏はこれを「カートを取る」と表現する。
消費者が、あまり売り主を意識せず「カートに入れる」ボタンを押すと、最も優先度が高い企業の商品がカートに入り、競合と比較されることなく、買われる。
つまりカートを取れるか否かによって、購入率に大きな差が生まれる。ただ、優先度がどうやって決まるかは、売り主にも開示されていない。そのためエルフィードは当初、単純に価格で優先度が決まると考えていた。だから、販売価格を他社より1円でも安くすることにこだわった。
最安値を実現するために、注文が入ると、商品の縦横高さの3辺の(長さの)データを基に、最小のコストで配送できる梱包材と配送会社を選ぶシステムを独自に開発した。こうして販売数量が増えれば、卸会社との交渉が有利になり、仕入れ価格が下げられる。こうした戦略でカートを取り、売り上げを拡大していった。しかし値下げした分、利益率が下がる、というジレンマもあった。
そうした中で、渡部氏は1つの事実に気がついた。それは、最安値でなくても、カートを取れることがある、という事実である。そこから、「おそらくAmazon.co.jpは過去の取引履歴や配送期日などから、出店者を評価してランク付けしているのではないか。そして、ランクが高い出店者は多少価格が高くてもカートを取れるのではないか」という仮説を導き出した。
この仮説に基づいて、販売価格を自動調整するシステムを作った。利益率は改善されたが、カートを取れる「正解率」は60~70%程度。売り逃しも少なくなかった。
そこで、より精度の高いアルゴリズムを開発するために、AIの導入を支援する米パロアルトインサイトに協力を要請。最適なアルゴリズム開発に取り掛かった。
開発したアルゴリズムでは、過去にどの商品をいくらで販売し、競合との金額差がいくらの場合に、何回カートを取れたのかといったデータを蓄積。それを教師データとして機械学習にかけて解析した。さらに出店者の評価なども加味して、どれぐらいの金額差までなら、高く出品してもカートが取れるかを算出した。
渡部氏は、その前から目星をつけてデータを蓄積しており、教師データは豊富に持っていた。そのため、「正解率」はすぐに90%近くまで上昇した。このアルゴリズムに基づいて、AIで自動的に価格設定をする仕組みができた。
エルフィードはセット販売も含めて1万点ほどの商品をAmazon.co.jpで販売している。このうち6000商品の価格を毎日自動的に変更しているという。商品によっては1時間で2回変更することもある。1時間当たり、約200商品について、カートを取れたかどうかが分かるという。例えば、10回連続でカートを取れないなど、著しく正解率が下がった場合は、競合のランクが上がるなどの変化があったと考えて、アルゴリズムを修正し最適化している。
こうして、機械学習を活用したリアルタイムマーケティングに取り組んだことで売り上げが増加。利益率も劇的に改善した。
ただしまだ万全ではない。「Amazon.co.jpではカートを取る事業者を決定するうえで、Amazonポイントの付与なども加味している可能性が高い。それがカートを取れない10%の理由だと考えている」(渡部氏)。そこで、より複雑なアルゴリズムに対応できるように、ニューラルネットワークを採用したアルゴリズム開発にも着手した。今後もAI活用を進めて、リアルタイムマーケティングの効果をさらに高めていきたい考えだ。
(日経クロストレンド 中村勇介)
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
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※石角友愛の著書一覧
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