いまシリコンバレーで「AI(人工知能)×行動経済学」が最強なワケ
初めまして。シリコンバレーを拠点に最先端のAI技術と戦略を日本企業に導入するパロアルトインサイトでCEO・AIビジネスデザイナーをしている石角友愛です。普段は業界横断的にAIで解決できる問題を定義して、AI開発と導入を支援する仕事をしています。
会社経営をする立場にいるものとして、またクライアントに価値を提供する立場として、そして親として、私は常日頃、人のモチベーションについて考えています。
モチベーションとは、人を動かす原動力になるもので、多くの場合人が何か意思決定をする際の目的意識の基盤になっています。会社、学校、家庭などあらゆる関係性構築と自分が望む結果を手に入れるために理解しなければいけないメカニズムの一つです。
モチベーションの研究は行動経済学や認知心理学などで科学的に研究されています。例えば私が住むアメリカで有名な研究者に、デューク大学の心理学教授であるダン・アリエリー教授がいます。ダン教授の有名な研究にレゴブロックとモチベーションの研究があります。
グループ1には、レゴブロックを与えて、好きなものを作ってもらいます。作ったレゴ一つにつき、3ドルもらえます。完成品はそのまま机の上に置かれたまま、全ての実験終了時にまとめて解体すると伝えられます。作るごとに与えられる報酬額は下がり2.5ドル、2ドルという具合になっていき、グループ1の人が何個レゴを作るか見るというものです。
グループ2は全く同じ条件ですが一つ違うのが、作ったレゴを目の前で解体され、解体したレゴピースで次のレゴを作る、というプロセスを与えられました。
その結果、グループ1は平均で11個ほどのレゴを完成させたのに比べ、グループ2は約半数の7個ほどしか完成させませんでした。
また、各グループ内の「レゴ好きな人」と「レゴ好きな人が完成させた数」の相関性を見てみると、グループ1ではレゴが好きな人ほど完成させる数も多かったという正の相関性が見られたのに比べ、グループ2では全く相関性が見られなかったと言うのです。
さて、このレゴ実験から分かることは何でしょうか。
答えは非常にシンプル。
相手が社員、顧客、または自分のこどもであれ、やる気を出させるには、『意味付け』が大事だということです。
意味付けとは、自分が行う仕事やタスクが、意味のあるものだと実感できることです。必ずしもポジティブな感情(楽しい、嬉しい)が伴う必要はなく、辛い工程でもそれが意味のあることだとわかっているとモチベーションがあがり、結果的に意味のない作業をしていると思っている人よりも1.5倍も生産力もあがるのです。
さて、このような人の行動を理解する意思決定論や行動経済学の研究は、実はIT企業やAIの分野でも面白いことにどんどん取り入れられていて、産業の破壊的イノベーションのドライバーになっていることがあります。
例えば、レモネードというNYを拠点に活動している損害保険会社は2015年創業のスタートアップですが、シリコンバレーでトップクラスのベンチャーキャピタル(セコイヤキャピタル、Thriveキャピタルなど)やソフトバンクが投資したことで話題になっていました。
レモネードはそのシンプルな商品ラインナップなどと並んで、AIを活用して数秒で審査を行うボットシステムを開発し、クレーム処理も全てAIが行なっています。また、保険代理人が自宅まで来てクレーム内容と被害状況の検査をすることもしません。
虚偽判定や保険金詐欺防止のためのアルゴリズムも開発しています。それにより徹底したコストダウンが実現され、従来の損害保険より圧倒的に安い料金設定になっています(例えば、賃貸に住んでいる人の損害保険が月5ドル)。
AIを徹底的に活用して人的コストを最小限に抑えた代わりにレモネードが投資しているのが、行動経済学に基づいた研究と、それを生かしたモチベーション構築の仕組みです。前述のダン・アリエリー教授が、チーフビヘイビアルオフィサー(Chief Behavioral Officer、 最高行動責任者)を務め、保険会社と顧客の利害対立をなくすビジネスモデルを提唱、『ソーシャルインシュランス』というコンセプトを生み出しました。
これは、保険請求されなかった保険料を、レモネードは余った利益として留保せず、顧客が希望するNPO団体などの寄付に回すというものです。寄付に回すことで顧客からの粉飾請求も減り、結果的なコストは安くなると言うことです。また、自分が誰かの役に立っているという『意味付け』の効果もあり、顧客が不正請求しないようなモチベーションアップにつながるというわけです。
アメリカでは最近CBOの存在感が増してきています。
CBOの役割は、技術コミュニティとビジネスコミュニティの架け橋となり、心理学や行動科学の知見を生かして会社のマーケティング戦略を考えることです。
そして仮説をデータやAI技術を使って検証するのもCBOの役割です。
私が知る限り、日本の会社や組織で、ここまで「AI活用+行動経済学」が融合して機能している会社はありません。
AI活用はコストダウンや収益アップにつながる領域で行われるべきですが、そこでコストを削減できたとして、どこに投資するかが重要な判断になります。
人間の動機付けメカニズムなどを科学的に理解した上で考案されたビジネスモデルや商品ラインナップとそのプロセスには他社が真似できない強みと、結果的に顧客の満足度とリテンションにつながります。
イノベーションを根底から起こすには多くの場合ビジネスモデルの変革が求められますが、その時に必要不可欠な要素が、AIと行動経済学の活用だと考えています。
AI導入を考える企業は、局地的な導入だけではなく、その先にあるものを見据えた上で戦略を考えることをオススメします。
今後の日本社会にも、Chief Behavioral Officerのような肩書きが浸透して、AIと行動経済学が融合した優位性の高いビジネスモデルが生まれることに期待しています
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
毎週水曜日、アメリカの最新AI情報が満載の
ニュースレターを無料でお届け!
その他講演情報やAI導入事例紹介、
ニュースレター登録者対象の
無料オンラインセミナーのご案内などを送ります。