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美空ひばりのAIはなぜ違和感があるのか

2020/01/17 ニュースレター「Moonshot」 
by 関口 
こんにちは。パロアルトインサイトCEOの石角友愛です。今日は新しくチームメンバーに加わった座間さんに記事を書いてもらいましたのでご紹介します!

美空ひばりのAIはなぜ違和感があるのか

はじめまして、AIビジネスデザイナーアソシエイトの座間と申します。
年始休暇はみなさまいかがお過ごしになりましたか。
私は春から大学生になるいとこと一緒に、森美術館の「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」を見に行きました。
会場をまわると、いとこからは「きれい」「面白い」「むずかしいけど不思議」などストレートな感想が出てくるので、連れてくることができてよかったと感じました(私は2回目の来場でした)。しかし美空ひばりAIの企画を見たあとの感想だけは「これはやってはいけないことだと思うという意外な反応でした。個人的に長らく気にかかっていたので、今回はこのことについて記事にしてみます。

美空ひばりAIとは、過去の美空ひばりさんの肉声テープを教師データとし、声の特徴を再現したAIです。森美術館では4K画質で「お久しぶり」と語る姿が印象的です。2019年の紅白歌合戦では、秋元康さん作詞による新曲を披露して話題になりました。
いとこは料理を調べるのにYouTubeを使い、VRに抵抗がなく、初音ミクの存在が当たり前のネオ・デジタルネイティブといわれる10代にも関わらず、この作品にだけ、やや否定的でした。彼女のコメントは下記の2点に集約されます。1.本人合意なくデータ活用が行われているように見える点:「(亡くなったあと)勝手にこういうことされたら、どうだろう」
AI技術は近年取り組みが進んだものであり、当時の音声データが現代このように利用されることは当時の美空さんには当然想像が難しかったと思われます。活用が想定されない時期に収集されたデータは、利用時の反響を先回りで考え、説明を用意しておく必要があるのかもしれません。

2.オマージュでなく本物に近い印象で利用されている点:「お久しぶり、は違うと思うし、本人ではない」
本物の人間との線引きを明確にし、オマージュとして示されるべきで「私は美空ひばりさんのAIです」と言われるのであれば良かった、とのことでした。

2019年12月に日本の人工知能学会倫理委員会が出した「機械学習と公平性に関する声明」では「機械学習は道具にすぎない」点が重要とされました。あくまで、人が使うモデルであり、価値の問題抜きに語ることはできません。

美空ひばりAIの開発には大きな努力があったことが森ミュージアムのHPを読んでも分かります。(写真はHPより)
勿論ここには、インターフェースが実際の生物に限りなく近い対象に生じる、不気味の谷の論点もあるかもしれません。しかし人間に関するデータの扱い方や、「お久しぶり」と語る主体が生身の人間ではなくあくまで道具であることについて、何か感じるものがあるのは必ずしも「大人」だけではない点は示唆に富むと思いました。

2020年1月にラスベガスで行われた新技術の見本市CESでは、人間らしさを追求し開発された、Neon社のAIデジタルアバターが注目を浴びました。美空ひばりAIについての社会の反応は一事例にすぎませんが、人間らしさを追求したAIは技術的にも引き続き関心の的になりそうです。クリエイティブなAI技術が活用されるとき、あわせて社会の反応を考えることが一層求められてくるのかもしれません。

石角より一言メモ:
私はこのニュースを見たとき、AI開発をする会社を経営するものとして、技術的に面白いなと捉えていました。でも、座間さんのいとこの方の意見を聞いていると、すごく納得できるなと思います。数年前にレンブラントの「新作をAIで作成してセンセーションを巻き起こしたことは記憶に新しいですが、あの時は受け入れられたのに、なぜか美空ひばりAIは嫌だ、という人も多いのではないでしょうか。その心理の違いを解明することが、未来に求められるAIを作ることに繋がると思います。

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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