ウーバーイーツ時代の外食産業「ゴーストキッチン」3つのジレンマ
こんにちは。パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナーの石角友愛です。今日はアメリカの外食産業の注目すべきトレンド「ゴーストキッチン」について書きたいと思います。
アメリカのメキシカンファストフードチェーンに、CHIPOTLE(チポトレ)というものがあります。タコベルよりも健康的で洗練されたイメージが強く、ミシェル・オバマ氏もあるポッドキャストの取材で「子育ての合間にチポトレに行きたくなるときがある」と言っていました。
このチポトレですが、数年前に食品に付着していた大腸菌による食中毒で消費者の信用を失い、株価が急落したものの、ここ2年で奇跡のV字回復を遂げています。
2019年通期(1〜12月)の売上高が前期比で14.8%伸び、店舗での売上額が11.1%アップ、そして何より注目すべきが、デジタルによる売上額が90.3%増加し、全体の売り上げのおよそ2割(18.0%)を占めるようになってきています。
デジタルの売り上げには、ウーバーイーツ(Uber Eats)やポストメイツ(Postmates)、ドアダッシュ(DoorDash)などの第三者フードデリバリーアプリとの提携による売り上げと、「チポトレーン」という注文を事前にアプリから入れておいてドライブスルーで取りに行くものが含まれています。
そして、デジタル注文をさばく厨房は、チポトレレストラン店内にあるお客さんから見える「ファーストライン」のキッチンではなく、「セカンドライン」キッチンで行われていることが、CEOのブライアン・ニコール氏のインタビューで明らかになりました。
消費者から目に見えることのない場所で、デジタル注文専用ラインが組まれ調理されている……このようなキッチンを「ゴーストキッチン」または「クラウドキッチン」と呼び、現在アメリカの外食チェーンのトレンドになりつつあります。
ある調査会社のデータによると、2020年には、アメリカのレストランの売り上げの半分以上が店内ではなく「店舗外(配達、ドライブスルー、テイクアウト)」によるものになると予測されています。
投資グループのCowen and Companyによると、店舗外消費による売り上げは今後5年間で業界の成長の80%を占めるということです。
アメリカのマクドナルドCEOは、2019年第3四半期の決算報告で「デリバリーが大きな次なるフロンティアだ」と述べ、1秒に10件のデリバリーの注文が入ると言いました。2019年にデリバリー部門による売り上げがグローバルで40億ドルを達成し、2016年に比べて300%の成長を遂げました。
店舗外による外食業界の売上比率の増加は、例えばウーバーイーツの成長率を見ても裏付けられます。ウーバーイーツ事業自体は利益が出ているものではありませんが、需要が伸びていることは決算報告を見てもわかります。
ウーバーのライドシェアビジネスの売り上げ伸び率が前年比で27%だったのに比べ、イーツは68%の伸び率。全体の売り上げにおけるイーツの比率も2018年は14.6%なのに対し、2019年は18%に増えています。
この店舗外消費の需要増加に対応するためには、従来の「レストラン店内にあるキッチン」でさばくのは、オペレーションの観点から見ても非効率的です。
そこで生まれたのが、「ゴーストキッチン」という考え方です。特に、配達やテイクアウトからの売り上げが大きい、または今後大きくなると予想されるレストランは、今後ゴーストキッチンに特化した方が良いという傾向が強まっています。
今後、外食ビジネスの経営者は、より多くの利益を確保するためには配達&テイクアウトオンリーの形態にするか、店内飲食オンリーの形態にするか、その選択肢を迫られるようになるかもしれません。
Uberの創業者でもあるトラビス・カラニック氏が現在取り組んでいるスタートアップに、「クラウドキッチンズ」というものがあります。配達専用のレストラン経営者のために共同キッチンを貸し出すという、いわば、キッチンのシェアリングエコノミービジネスです。
ウェブサイトには、従来のレストラン設計やワークフローの全てが店内飲食の最適化を前提に構築されており、配達やテイクアウトの最適化を達成するためには経営者はジレンマを抱えている、と書かれています。私の考察をつけてここを深掘りしたいと思います。
店内飲食の場合、「お客を席に案内」→「注文を取り付け」→「厨房に伝え」→「料理を運び」→「お会計」という作業動線になります。
その合間に配達注文やテイクアウトの注文を複数の異なるモバイルアプリから受注し、手作業でPOS入力をして厨房とのやりとりを行い配達用の包装を行い配達員に渡すことは、店員にとっても作業の複雑性が増し、結果的に作業効率の低下につながります(ファストフードの場合は作業動線がよりシンプルになりますが)。
店内飲食と配達の客が求めていることが根本的に異なるため、中途半端なワークフローでは二兎を追うものは一兎をも得ずになってしまいます。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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