AIと「労働」の関係を語る時、どうしてもAIが人間の仕事を奪うか、そうでないかという二元論で語られがちだ。
「AIは私たちの仕事を奪わない」——。
日本のクライアント企業100社近くにAIの導入や提案を行ってきた実務経験からそう語るのは、「パロアルトインサイト」CEOの石角友愛だ。同社はシリコンバレーを拠点に最先端のAI技術とAI戦略を日本企業に導入する「AIビジネスデザインカンパニー」だ。
石角は経営を回しながら、「AIビジネスデザイナー」として自ら現場に立つ。AIビジネスデザイナーとは、一般企業の経営者や事業担当者と、データサイエンティストの間に立ちAIビジネスを創造する、新しい職種だ。
彼女はハーバードビジネススクールを卒業後、グーグル本社での勤務を経て、AIスタートアップを2社経験し、パロアルトインサイトを起業という、華々しいキャリアを持つ。まずはその仕事ぶりを覗いてみよう。
左からパロアルトインサイトの技術顧問の杉山将・理化学研究所革新知能統合研究センター長・東大教授、長谷川貴久CTO、CEO石角友愛
現在は新型コロナウイルスの世界的な流行で、米日間の行き来は制限されているが、石角は普段、トータルすると1年の4分の3をアメリカ、4分の1を日本で活動している。
3月上旬、米国西海岸の自宅で働く石角に、Zoomで遠隔インタビューを行った。驚いたのが、リビングの生活感が見えない仕掛けだ。画面で見える彼女の背後には、葛飾北斎の「富嶽三十六景」がプリントされた、ジャポニズム感満載の衝立がデーンと立つ。
「これ、Zoomで仕事する人は持っていた方がいいアイテム。リモートワーク用の『壁』なんです。Amazonで5000円ぐらいで買った衝立なんですが、パッと広げるだけ。便利でしょう?」
こんな風にざっくばらんな話しぶりが、彼女の魅力の一つだ。
同社CTOで、データサイエンティストでもある長谷川貴久もZoom取材に加わった。石角と同様、彼もMBAホルダーだ。
長谷川はこの日、新設したシアトルオフィスで働いており、オフィスの「お披露目ツアー」と称し、まだ家具も揃っていない段階の各部屋をウェブカメラを使ってぐるりと映し出した。
ディープラーニング用のサーバーを置く同社でも十分な速さで、かつ、モバイルワークにも対応できるプロフェッショナル仕様のルーターが据えられていることなど、長谷川はオフィスの特徴をさくさくと画像で映し出しながら解説した。
石角は言う。
「社員の働き方は、100%リモートがデフォルトなんです。私も、普段からリモートで仕事をしていて、オフィスに行くのは週1回と決めています」
「アメリカは新型コロナウイルスの感染拡大で外出制限が続いていて、在宅勤務がメジャーになってきましたが、私たちは、これまでの働き方と全然変わらないです。日本のスタッフとのやりとりも多いですし、日本のクライアントとの商談もすべて遠隔で行っています」
本社は、米西海岸のスタンフォード大がある町、カリフォルニア州のパロアルトに置いた。さらにそこから車で20分ほどのサンノゼに、シリコンバレーラボを開設。
石角をはじめとする経営陣チームは、シリコンバレーやシアトル在住のデータサイエンティストのネットワークを構築している。この理系人材網こそが最大の武器だ。
人材の争奪戦の様相を見せるAIビジネス界で、スタートアップで、なぜそれだけ優秀な人材が集まってくるのか?
石角の答えは明確だ。
パロアルトインサイトが入居する、サンノゼのWe Work
「いちばんの魅力は、100%リモートで働けることです。ミレニアル世代のエンジニアは、自分の好きなようにスケジューリングできる働き方を好みます。うまく自分のスケジューリングができれば、昼間ジムに行ってもいいし、旅行に行ってもいいし」
「それと、エンジニアをリスペクトしているというのも、大きいんじゃないかと思います。私はエンジニアに、顧客の細かい対応とか、営業とかは絶対にやらせないですから。そうした、技術者とハンズオンで仕事をするやり方は、グーグルで働いていた時に叩き込まれました。
グーグルはすごいんです。エンジニアに対して、『鉄の壁』があって。エンジニアはものを作る人だから、会社の中で一番すごいと。技術周りで派生する細かい仕事は、管理者としてのプロダクトマネージャーがいて、そこで補足していくように、きっちり色分けしていました」
さらに、データサイエンティストが、国際学会でAIに関する論文を出したいと希望した時、ビジネスとは直結しない場合でも、「彼らのキャリア形成を後押しするため、作業時間の一部を論文作成に割いてもよい」と、自身の裁量の中で認めているという。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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