半年で株価3倍。フィットネステック・Pelotonに見るアップル、テスラとの共通点
こんにちは。パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナーの石角友愛です。今日は、コロナ禍で急成長した業界の一つ、オンラインフィットネスについて考察したいと思います。
スポーツの秋ですが、皆さんは運動をしていますか。私はちょうど去年の10月にPeloton(ペロトン)バイクを購入し、1年間で480以上のサイクリングのクラスをコンプリートしました(一つのクラスが10〜60分と色々あるのでコンプリート数が多く見えるところもやる気の維持に繋がります)。
カリフォルニア州ベイエリアでは、山火事の影響で屋外でランニングなどの有酸素運動ができない時もあり、今以上に自宅で運動ができる環境を作ることの大切さを実感したことはありません。このペロトン、ビジネスモデルがフィットネス×テクノロジーの注目企業として、いま熱い視線を浴びています。
Pelotonは、コロナで株価が350%以上上昇し、今最も注目されているオンラインフィットネスカンパニーです。室内でいつでも気軽に運動ができるサイクリングマシンはヨガマットに収まる大きさで、音もうるさくありません。バイクにセンサーがついており、リアルタイムで速度や負荷、その2つを合わせた出力値である「アウトプット量」が数値化されます。
数値化されたデータを可視化し、オンラインコミュニティとしてユーザーに見せているのが22インチのスクリーンに映し出される「リーダーボード」です。
例えば、ペダルの負荷を高めたら、その都度リアルタイムで自分のアウトプット値が上がり、同時に受講している何万人にもおよぶ他のユーザー間での自分の順位が動的に変化します。
自分より上位に位置するユーザーを抜かすことでやる気が出るタイプの人には、この「リーダーボード」機能はとても大事になってきます。
リーダーボード機能を作るには、オフラインのデータをオンラインで一元化するコネクティッドプラットフォームを開発する必要があります。ペロトンではバイクやトレッドミルの開発・製造と同じくらい、ソフトウェアの機能拡充に力を入れています。
そういう意味では、ハードとソフトが同じだけ強い、テスラやアップルに似ています。iPhone同様に、ペロトンのソフトウェアも定期的にアップデートされ続けます。
ビジネスモデルとしては、バイクやトレッドミルの販売だけではなく、「フィットネスアプリのサブスク」があります。
毎月39ドルのサブスクリプションフィーを払い続けなければいけないのがネックですが、インストラクターの授業がいつでもオンデマンド、またはリアルタイムで受講できます。
現在、ペロトンバイクを所有している「コネクティッドユーザー」は2019年の同時期と比べ100%以上増加し100万人以上、バイクを持たずアプリだけを毎月12.99ドルでサブスクしているユーザー(ジムなどで自分のIDを使います)を入れると300万人以上。最近の発表によると、ユーザーは月に平均して25回はバイクを利用をしているとのことです(2019年は月平均12回)。
ペロトンの強みはなんでしょうか。私が考察するのは、以下の3つの点です。
YouTubeでもフィットネスは強いコンテンツの1つですが、ペロトンのユーザーはコミュニティー内でのみアクセスできる個性豊かなインストラクターに惹かれています。
ペロトンを知らない人は驚くかもしれませんが、ペロトンインストラクターはコミュニティーの中では非常に有名人です。中でも経営陣の1人でもあるロビン・アーゾン氏(上の動画に出演している女性)はインスタグラムのフォロワー数も59万人、ForbesのUnder40に選ばれたほど。
また、コミュニティーの交流はインストラクターのみとの繋がりが強く(アイドルとファンの構図に似ています)、Facebookのようにユーザー同士の横の繋がりが大きくないことも、特徴として挙げられます(知らないユーザーからハイタッチなどもらうことはありますが、その程度のやりとりです)。
これは、コミュニティーの価値が最大限生かし切れていない領域とも考えられ、伸び代だとも言えるかもしれません。
インストラクターがコンテンツの中核をなしているものの、プラットフォーマーとしてのペロトンの強みは「範囲の経済」にあると考えます。
授業の種類はサイクリングだけでも13種類(HIIT、坂道、タバタ式トレーニングのようなものから軽い強度のもの)、時間も短いもので10分から、長いもので60分ほどのクラスを、その時の気分や体調で選べます。
また、オンデマンドで用意されているコンテンツの数の多さはフィットネス版ネットフリックスを連想させます。提供するコンテンツの範囲が広がれば広がるほどコンテンツ生産コストも抑えられ、同時にユーザーのロイヤリティ向上や離脱抑止もできて、結果的に毎月のサブスクリプションの離脱率は5%以下になっています。
ペロトンは実はリテールショップにも力を入れています。
米国では大規模なショッピングモールの中に、アップルストアやテスラのショールームがあり、その近くにペロトンショップがあることも少なくありません。ペロトン店内ではサイクリングマシンやトレッドミルの試乗ができ、認知度向上に役立っています。
また、ニューヨークの本社にはインストラクターが授業を放送するスタジオがあり、コロナ前は多くの人が足を運んで、リアルタイムに授業を受けていました。
やりとりをファンがインスタグラムなどに公開し、ファンがファンを呼ぶ「WOMマーケティング」で新規顧客獲得もしています。
同じようなオンラインとオフラインの融合が、コネクティッド・フィットネスプロダクトにも当てはまります。
サイクリングマシンのセンサーから集まる速度や負荷、アウトプットのデータをオンラインでリアルタイムに一元化、可視化し、数万人規模で同時に受講しているユーザー全員のリーダーボードのユーザーに同時にコンテンツを届けるシステムを構築するのは一朝一夕ではできません。
そしていま、注目しているのが、ペロトン同様に、オンラインとオフラインの融合とコネクティッド・フィットネスを強みに、新しいフィットネス2.0体験を生み出そうとしているのが「ルルレモン」です。
ルルレモンはフィットネス系のアパレル製造販売に特化した製造小売でしたが、2020年6月に、ミラーというコネクティッド・フィットネスのスタートアップを5億ドル(525億円)で買収し話題になりました。
コロナでカーブサイドピックアップで成功したアパレル企業の一つでもあるルルレモンが、店舗という不動産資産を活用してオンラインフィットネス(オンラインとオフラインを組み合わせたヨガなどの授業)に参入するのは、非常に理にかなっていると言えます。
ルルレモンの興味深い動きについては、またの機会に解説できればと思います。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
毎週水曜日、アメリカの最新AI情報が満載の
ニュースレターを無料でお届け!
その他講演情報やAI導入事例紹介、
ニュースレター登録者対象の
無料オンラインセミナーのご案内などを送ります。