「ハンコのデジタル化」をDXと呼んではいけない!日本人が誤解している「DXの定義」
日本では、(1)デジタイゼーション(Digitization)、(2)デジタライゼーション(Digitalization)、(3)デジタルトランスフォメーション(DX)を混同している人が多い。というよりも、この3つをすべてまとめてDXと言ってしまっている。
ここで説明するのは、単に言葉の意味だけではない。この3つの段階の概念を明確にすることは、DXの本質を理解することにつながるはずだ。
まず、デジタイゼーションとは、「アナログからデジタルへの移行」を指す。
IT業界で著名なアナリストであるジェイソン・ブルームバーグは、デジタイゼーションについて以下のように述べている。
ここでもわかるとおり、デジタイゼーションとは、ツール導入による手作業の自動化やペーパーレス化などを指す。日本で議論されてきた「ハンコのデジタル化」などは、このデジタイゼーションの段階である。デジタイゼーションを導入する対象は、主に社内の作業工程(会計、営業、カスタマーサポートなど)が当てはまる。
ただし、このデジタイゼーションでは、省人化、最適化することによるコスト削減がメリットになり、今までに存在しなかったシナジー効果などを期待できる段階にはない。
デジタイゼーションが「アナログからデジタルへの変換」だとしたら、デジタライゼーションは、デジタル化されたデータを使用して、作業の進め方やビジネスモデルを変革することだ。
コンサルティングファームのガートナーの定義によると、「デジタイゼーションされた情報やデジタル技術を活用し、作業の進め方を変え、顧客や企業の関与と相互作用の方法を変革し、新しいデジタル収益源を生み出すこと」を指す。
ツール導入などの表面的な話ではなく、より複合的で本質的なビジネスモデルとコアのデジタルによる変革を示すのである。
ここまで読んだ皆さんは、このデジタライゼーションの定義を聞き、「それこそがDX(デジタルトランスフォーメーション)なのでは?」と思ったかもしれない。実際に、アメリカでも少なくない数の経営者がデジタライゼーションのことをDXの文脈で話すことが多い。
しかし、両者には決定的な違いがある。デジタイゼーションとデジタライゼーションが技術に関する変革を指すのに対し、DXとは、主に人や組織に関する変革を指す。
デジタライゼーションにより実現された新たなビジネスモデルとコアビジネスのデジタル変革を恒久的なものへと変えるためには、人の変化が必要不可欠になる。この場合の「人」には、顧客、エンドユーザー、消費者、協力会社、社員などが当てはまる。
DXを進めるには、KPI(重要業績評価指標)や評価制度の見直し、抜本的な組織変更と役割変更が必要となり、その変更に伴う人の管理が必要になってくる。
デジタイゼーションやデジタライゼーションが主に情報システム部や経営企画部、調達部や事業部単体での仕事だとしたら、DXは経営者が自ら舵を切って会社の文化や体制を変えていくことで初めて実現される抜本的構造改革なのである。
企業のDXとは、「DX室」などといった表面的な横断的少人数DXチームが行う単一プロジェクトで終了するものではないことを、わかっていただけるだろうか。
具体例を紹介しよう。デジタル庁やデジタル局などができて何かとDXが話題になった2020年だが、たとえば東京都のDXを進める宮坂副都知事のDXに関する考えは図のようなものだ。
ここでもやはり、デジタイゼーション、デジタライゼーション、DX(デジタルトランスフォメーション)の3段階で説明されている。
そして、東京都は(本資料を作成した2020年時点で)デジタイゼーションの段階であり、2023年までにデジタライゼーションの段階まで進むことを目標としていることがわかる。
私がこれらの言葉の定義を示したのは、このデジタイゼーションとデジタライゼーション、DXの概念を理解していないと、電子ハンコの採用やマイナンバーの導入がDXであるというような勘違いをして、目的と手段が混乱してしまうリスクがあるからだ。
ここで強調しなければいけないのは、ITツールの導入というデジタイゼーションは、将来のデジタライゼーション、その先にあるDXの実現にとって必要条件のひとつであることだ。
ただし、十分条件ではないし、同義語でもない。そして、その過程は長く時間がかかるものであるとの認識も忘れてはならない。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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