米国の巨大スーパー相手に「教育プログラム」が新ビジネスになる理由……時給アップでも働き手が戻らないアメリカ
こんにちは。パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナーの石角友愛です。今回は、アメリカで加速する「エッセンシャルワーカーの労働力需要に追いつかない採用問題」に企業がどのように立ち向かっているかについてです。
アメリカでは、日本と同様にコロナウイルスの第5波が来ていると言われており、ワクチン接種をしていない人を中心に感染がさらに広がっています。
一方で、9月の新学期を前に、色々なことがノーマルに戻りつつあるのも事実です。例えば、教育機関は、小学校から大学まで、9月から通常授業を再開するところが多く、今までは自宅からリモート学習をしていた私の知り合いの大学生も、今週にはキャンパスに戻ると言っていました。
このように、ノーマルに戻りつつあるアメリカ社会において、飲食業界やリテール(小売業)の働き手の需要は再び増えています。しかしその反面、供給側の人手がそれに追いつかないという問題が顕在化しています。
この背景には、解雇されたエッセンシャルワーカー達がまだ失業保険などをもらっている最中で市場に出てきてくれないことや、売り手市場の中でより良い仕事の可能性に気がつき、元の職場に戻って来なくなっているという状況があります。
例えば、ワシントンポストは以下のように報じています。
アメリカでは何百万もの人々が仕事を辞めようとしていますが、その中でも小売業は退職者の増加率が最も高い業種であり、4月には約64万9000人もの小売業の従業員が退職届を提出しました。これは、労働局が20年以上前にこのようなデータの追跡調査を始めて以来、1カ月間の退職者数としては最大です。一部の人は、保険代理店、銀行、地方自治体など、これまでより賃金や福利厚生が充実していてストレスの少ない仕事を見つけています。また、新しい仕事を学ぶために学校に戻ったり、子供の保育園を確保できるまで待っている人もいます。
テネシー州マーフリーズボロに住む23歳のエイスリン・ポッツさんは、執筆や芸術に専念するために、時給11ドルの全米規模のペットチェーン店の水生生物専門家の仕事を辞めましたが、その理由についてこう述べています。「パンデミックの時期、労働環境は本当に悲惨でした。その時気が付いたのです。“将来性のない仕事をしていては、人生がもったいない”と。」
時給11ドルというのは、連邦政府が定める最低賃金の時給7.25ドルよりは高いですが、私が住むカリフォルニア州では、パンデミック前からリテールや飲食業界で働く人の賃金を上げることを定める条例などが多く出ていました。
例えば、2021年の7月にはサンフランシスコ市の最低賃金が以前より25セント引き上げられ、現在は16.32ドル(日本円で約1800円)になっています。それでも、物価が高騰しているサンフランシスコ市では足りないという議論が多く、中には「28ドルまで引き上げないとサンフランシスコで必要な生活費はまかなえない」という意見も出ています。この賃金問題は、今後も飲食業界やサービス業界の利益率を圧迫することになりそうです。
例えば、タコスやブリトーのチェーン店であり、約2900の店舗を所有・運営するチポートレは、5月に従業員の時給を平均15ドルに引き上げると発表しました。さらに、各職務における経験豊富な従業員には昇給を割増しすることを約束し、時給制のマネージャーには平均して1時間あたり2ドル程度、また給与制のマネージャーにはそれに見合った昇給を実施しました。
このことから、時給アップは単に新規従業員だけに提供すればよい特典ではなく、既存社員の離職率を抑えるためにも全社の取り組みとして行う必要が出てきていることがわかります。
また、従業員への昇給は企業だけでなく、消費者にとっても大きな影響があることを忘れてはいけません。
事実、7月にはチポートレの最高財務責任者であるJohn Hartung氏が、メニュー価格を3.5〜4%引き上げたと発表しました。また、同氏によると、チポートレの人件費は、第2四半期の総売上高の24.5%から、第3四半期には26%強に上昇する見込みであるとのことです。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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