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ハイブランドのEC戦略-ITmedia ビジネスオンライン寄稿

2021/08/30 メディア掲載実績, ITメディア 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

高級ブランドの分岐点 EC時代、攻めるグッチと守りのシャネル

コロナ禍で顧客が店舗に足を運べなくなったことで、EC化は一気に加速しました。

米国では、パンデミック前に約10年かけて5.6%から16%へとおだやかに浸透していたEC化が、パンデミック中のたった8週間で27%まで一気に浸透したと言われています

その中で、EC化には最も遠いと思われていたハイブランドファッションが、今、EC戦略において大きな分岐点に立たされています。特に、ブランドによって「EC化をどう捉えるか」が大きく異なっている点は非常に興味深いです。

デジタル投資は「希望の光」

「The State of Fashion 2021:In search of promise in perilous times」より

マッキンゼーによると、2020年以前にはオンラインで洋服を買うことがほとんどなかった人でも、今ではファッション関連商品の購入の8割を自宅からネットで行うようになったそうです。

同時に、海外旅行に新たな規制が導入されたことで、これまで海外でハイブランド製品などの高級品を購入していた中国の消費者の多くが、国内で購入するようになりました。

同社はまた、中国人によるこのような高級品の購入額が2025年までに1780億ドルにも達する見込みであると予想しており、ファッション業界において、中国は世界で最も収益性が高く、急成長している市場だと分析しています。

また、マッキンゼーがファッション業界の経営者へ行った調査によると30%の経営者が「デジタル投資が今後の希望の光」だと答えていることから、デジタル投資とデジタルチャネル強化による中国市場の獲得が大きな課題であることが分かります。

ECマーケットプレースからの脱却

ハイブランドファッションがデジタル販路を強化する際、今まで主な選択肢だったのが高級ブランドの商品を扱うECマーケットプレースでの出店でした。FarfetchやNet-a-Porterなどが主流です。

2020年には、アジア市場の拡大を狙うカルティエやヴァンクリーフ&アーペルを傘下に持つブランドハウスのリシュモンが、アリババとジョイントベンチャーを作り、Farfetchに11億ドル(1200億円以上)の投資を行いました。

その一方で、最近では、デジタルマーケットプレースから脱却する動きも目立っています。

グッチを始めとするケリング・グループは内製化したD2CのECサイトでの販売に注力(提供:ゲッティイメージズ)

例えば、グッチ、サンローラン、バレンシアガ、ボッテガ・ヴェネタなどを傘下に持つケリング・グループはNet-a-Porterでの出店を少しずつ減らし、最終的には内製化したD2CのECサイトでの販売に注力をすることを発表しています(もっとも、Net-a-Porterには前述のリシュモンが投資をしていることもあり、ライバルと距離を置くためとも言われています)。

ケリング・グループのチーフデジタルオフィサー兼チーフクライアントオフィサーのグレゴリー・ブッテ氏はマッキンゼーによる取材に以下のように答えています。

「なぜわれわれが独自のサイトを立ち上げるかというと、私たちのビジネスの4分の1、そしてお客さまとのやりとりの多くがオンラインで行われるようになったからこそ、その体験をコントロールすることにメリットがあると考えたからです。これにより、例えば、オンラインで購入した商品を店舗で受け取れたり、オンラインで店舗・商品を予約して試着ができたり、オンラインで購入した商品を店舗で返品できたりと、異なるチャネル間をシームレスに行き来できるような顧客体験を提供したいと考えています。このような橋を架けるには、顧客と販売チャネルの両サイドをコントロールするしかありません」

「グッチライブ」

また、同氏は雑誌の取材で「デジタルは、流通チャネル、顧客にシームレスなオムニチャネルサービスを提供するためのプラットフォーム、ブランドイメージや認知度を高めるドライバー、パーソナライズされた方法で顧客と接するためのツールなど、さまざまな役割を同時に果たします。デジタルテクノロジー、データサイエンス、イノベーションは、あらゆるタッチポイントで顧客に最高の体験を提供する方法をもたらすのです」とも述べています。この言葉からも、今後は多角的なデジタル投資が必要になってくることが伺えます。

例えば、グッチが2020年にローンチした、「グッチライブ」というサービスは、「長距離営業」という取り組みの一環で、ECサイト上で買い物をするクライアントに対して、店舗にいる店員がモバイルやPCのビデオ機能を通して商品を見せてくれるものです。このような新しいオムニチャネルの施策の効果もあってか、グッチを傘下に持つケリング・グループの今期(第2四半期)の売上高は、約2倍に増加しました。

ルイ・ヴィトンとシャネル、対照的な戦略

ケリング・グループとならぶ巨大ファッションハウスのLVMHはルイ・ヴィトンやディオール、ロエベ、フェンディ、ジバンシィー等を傘下に持ちますが、こちらも同様にD2Cに力を入れています。

中でも、ルイ・ヴィトンのWebサイトは比較的UIがよく使いやすいのが特徴で、私の周りの友人たちにも人気です。また、サイト上で購入して、近くの店舗で受け取れるサービスも充実しています。

例えば、サイト上で欲しい商品を購入し、店舗で引き取る際にはその場で箱を開けて中を確認できます。さらに、店舗で他によい商品を見つけた場合にはその場で交換でき、商品の差額はクレジットカードに返金してもらえるのでとても便利です。

サイト機能やオムニチャネル体験を向上させる際に大事なのが、オンラインと店舗の在庫情報の一元化です。ハイブランドファッションでは、ウォルマートのように全ての在庫情報が一元化できているわけではなく、また、Webサイトで購入したあとにキャンセルをする場合、クライアントサービスに電話をかけてキャンセルをしないといけないなど、顧客側にも店舗側にも面倒な手続きが生じてしまう点がボトルネックになっています。

例えば、私の友人がルイ・ヴィトンのオンラインサイトで間違えて複数のバッグを購入してしまい、カスタマーサービスに電話をかけてキャンセルを依頼したところ、「オンラインでの発注は全てオンライン上で行われており、一度オーダーが入るとカスタマーサービスでもキャンセルできない。出荷されてから返却依頼をするしかない」と言われ、非常に不便な思いをしたとのことです。

シャネル公式サイトより。「購入する」ボタンは無く、代わりに「シャネル ブティックにてコレクションをご覧いただけます」というキャプションが入っている

このような事態を起こさないためには、オンラインでの購入、キャンセル、出荷などの商品の動きとカスタマーサービスがシームレスになることが必要であり、今後ハイブランドがECサイトの顧客体験の向上を目指す上では不可欠な要素になるとも言えます。

一方で、在庫情報を必ずしも一元化しないことで、ロイヤリティーの高い顧客に店舗まで足を運んでもらうという戦略もあります。その代表格がシャネルです。

シャネルは、ハイブランドの中でいまだにハンドバッグやアパレル商品のEC化をしていないブランドです。そのため、バッグを買いたいと思った顧客が店舗に直接足を運び、店員と関係を構築した上で購入する、という伝統的な購入フローを維持しています。

AIを活用した商品レコメンドや2次流通市場での価格査定

ハイブランドファッション界では、AIの活用も広がっています。LVMHはGoogleとAIの活用における協定を結んだと発表し、今後、それぞれのブランドでAI活用による需要予測や在庫管理を強化して、顧客にターゲットを絞った商品をより適切に提案できるようにしてゆく方針を明らかにしました

実際、ヴィトンアプリには、身近な商品の写真を撮ってその場で物体検知を行い、類似する商品をレコメンドする機能が搭載されています。私もいくつかの商品で試しましたが、精度が良い商品群とそうでないものの差が大きいと感じました。

また、ハイブランドファッションにおいて欠かせない存在が2次流通市場です。アメリカでは大手中古マーケットプレースが複数あり、それぞれ違いがありますが、特にAIに注力をしているのが14年に創業したRebagです。

Rebagでは、「クレア」というAI機能を開発し「クレアトレード」というサービスを先日発表しました。これは、Rebag上で売られている中古のハンドバッグを購入する際に、自分の持っている出品予定の商品の写真を撮ってアップロードすると、その場でクレアAIが査定を行い、査定額を購入額からリアルタイムで差し引いてくれるというものです。

RebagのWebサイトより

例えば、2000ドルの中古バッグを購入したい場合、手持ちのハンドバックをクレアAIを通して査定し、1500ドルの査定額だとしたら、その場で差分の500ドルのみを支払い2000ドルのバッグが購入できるという仕組みです(その後、査定済みのバッグをRebagに郵送します)。

今まで、ハイファッションの中古市場では、商品の売り買いを一度の手続きで行うということがありませんでした。

高いハンドバッグを購入するために手持ちの商品を売る場合には、売り手を見つけて販売し、郵送、入金を行う必要があるため、どうしてもタイムラグが発生してしまいます。そして、その間に人気商品が他の人に買われるかもしれないという心理的な壁が生じてしまうため、新しい商品を買うために手持ちの商品を売る、という発想が生まれにくかったのです。

しかし、クレアAIを通すことで「手持ちの商品を売る」という作業を一つの購入フローに取り入れることができます。中古市場では売り手を増やすことで中古商品を多く入手し、流動性が高い形で供給することが何より重要なため、商品の流動性を高める観点からも、クレアトレードは興味深い機能であると言えるでしょう。

ちなみに、私自身でもクレアAIを試してみたところ、ロゴなどがあるバッグや人気モデルの場合には正しく認識できても、古いモデルの商品画像などは認識できないようでした。この点に関しては、今後、商品の画像データや属性データを管理しAIの精度を高めることで徐々に解消され、顧客体験も向上できるのではないかと考えられます。

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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