今週の注目カンパニー
WSJに掲載されていた記事が印象的だったので紹介いたします。
記事に出てくるトロイ・サットン氏は、2020年のパンデミック時に時給12ドルの仕事を失い、1年以上も失業していたところ、この夏に時給18ドル以上と言われるペンシルバニア大学の仕事に就くことが出来たそうです。
収入があがったことでやっと生活が豊かになるかと思いきや、最近アメリカで起こっている急激なインフレのせいで、生活自体は何もよくなっていないどころか生活苦に陥ってしまったそうです。
特に水道光熱費や、家賃、食費の高騰がダメージを与えており、安い食品を求めて移動しようにもガソリンの値上がりでままならず、なかなかお金を稼いでいる実感を感じられなくなっているといい、深刻な社会現象となっています。
アメリカの労働局によると、8月の消費者物価全体の上昇率は前年同月比5.3%で、6月と7月に比べてやや鈍化したものの、依然として13年ぶりの高水準に近いといいます。これは、アトランタ連銀と労働省のデータによると、最も所得の低い層の労働者の「実質賃金」(インフレ調整後の賃金)が、8月に前年同月比で0.5%減少したといいます。これは、パンデミック前の2年間の年率2.1%の成長とは対照的な結果となっています。
賃金と物価の関連性については、過去の記事でも書きましたが、コロナ後を見据えたエッセンシャルワーカーの労働力需要に、採用が追いついていないという問題もあります。
タコスやブリトーのファーストフードチェーン店「チポートレ」では、2021年5月に従業員の時給を平均15ドルまで引き上げました。各職務における経験豊富な従業員には昇給を割増しすることを約束し、時給制のマネージャーには平均して1時間あたり2ドル程度、また給与制のマネージャーにはそれに見合った昇給を実施したといいます。
一方で、このような従業員への昇給は、企業だけでなく消費者にとっても大きな影響があることも忘れてはいけません。チポートレのメニュー価格は、昇給の影響もあり7月には従来より3.5〜4%も引き上げられたといいます。
これまでのアメリカの小売りや飲食業界は、店頭で働く従業員たちにサービス提供を依存しているにも関わらず、安い賃金や過酷な労働環境の中で、明確なキャリアアップなどの道のりも提示してきませんでした。その結果コロナを契機に、従業員側がより良い機会を求めて業界から離れていってしまいました。
今後は、長期的な雇用関係を持つために、その場しのぎで時給を引き上げるのではなく、やりがいを感じられる職場環境作りや、再教育を全面的に企業側が提供しキャリアアップの道を作るなどの企業努力も必要になってくるでしょう。 |