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無人レジとAI搭載型カート-ITmedia ビジネスオンライン寄稿記事掲載

2021/12/09 メディア掲載実績, ITメディア 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

白熱する「無人レジ競争」の行方──ショッピングカート式の勝算と課題は?

トライアルのレジカート。顧客は画面の下についたバーコードリーダーで商品をスキャンして、かごに入れる。画像は2021年6月の発表会より

前回の記事では「Amazon Go」の技術をライセンスした「Just Walk Out」の事例を紹介しましたが、レジの無人化には他にも種類があります。例えば、ショッピングカートにレジ機能を搭載するのがその一つです。そこで、今回はレジ機能付きショッピングカート事業についてご紹介・考察したいと思います。

最近、日本でもレジ機能付きショッピングカートが話題になっています。例えば、福岡に本社を持つ小売りチェーンの「トライアル」では自社の大型店舗(スーパーセンター)を中心とした35店舗にレジ機能付きショッピングカートを導入し、2021年6月時点で約4000台が稼働しているとのことです。

このように、リテール企業が中心となってレジ機能付きショッピングカートを開発するメリットはたくさんあります。レジ待ち時間の短縮はもちろん、顧客が入店の際にカート上で会員カードをスキャンすれば、カート上の画面を使ってより顧客にパーソナライズしたおすすめ商品が提案できます。

また、不要となるレジエリアに商品棚を追加すれば、店舗内スペースの有効活用にもつながります。さらに、カート上の画面をデジタルサイネージとして利用すれば、リテール企業にとって新たな広告ビジネスにもなるでしょう。

しかし、米国ではスーパーなどのリテール企業自体よりも、リテール企業に付加価値を提供するポジションにいる企業がこのようなサービス強化の手法を事業にするケースが目立ちます。

例えば、スーパーマーケットの買い物代行をしてくれるインスタカートです。インスタカートは日本のウーバーイーツのようなデリバリースタートアップに類似するビジネスモデルで、買い物代行をするたくさんのショッパー達をネットワーク化しています。アプリを通して顧客が特定のスーパーから商品を購入すると、ショッパーがスーパーに行き、商品をピックアップし、顧客の家まで届けてくれるものです。

デリバリーアプリ会社がなぜ、レジに参入?

インスタカート(提供:ゲッティイメージズ)

ホールフーズ・マーケット(提供:ゲッティイメージズ)

なぜ、デリバリーアプリ会社がリテール企業への価値提供にこだわるのでしょうか? 理由としては、リテール企業が内製化したデリバリーアプリやサービスを立ち上げることへの脅威、競合デリバリーアプリとの差別化があります。

インスタカートは独自のサプライチェーンを持ちません。いわば、仲介として数多くのスーパーマーケットと顧客をつなげる役割を果たしています。その場合、プラットフォームとしての価値は、取り扱うスーパーの多さで決まります。

アメリカの場合、大手スーパーが市場の4割を占めるため、とりわけ全米で展開している大手スーパーチェーンの商品を取り扱うことの意味は大きくなります。

例えば以前、ホールフーズ・マーケットがアマゾンに買収されたことで、インスタカートからホールフーズの商品が買えなくなったことは、記憶に新しいです。この背景には即日配達サービス拡充を狙うアマゾンの動きがありました。

スーパーと長期的に提携してもらうには、包括的なサービス提供が不可欠です。そのため、インスタカートのようなデリバリーアプリ企業は、単純に集客をするだけでは優位性を維持できなくなってきているのです。

インスタカートが買収で狙う「B2B2C」市場

このようなニーズを受け、インスタカートは先日レジ機能付きショッピングカートを提供するCaper AI社を3億5000万ドルで買収したと発表しました。この買収は、インスタカートが拡大するリテール向け、「B2B2C」のテクノロジー戦略の一環とされています。

同社は、主力のオンライン注文・食料品配送に加え、店舗が顧客に新しい価値を提供するための製品やサービスを構築・拡大する動きを強めているのです。

実際、インスタカートはCaper AI買収の2週間前にも、食料品小売業者のためのエンド・ツー・エンドの注文管理とケータリングを可能にするSaaS型注文管理システム(OMS)を擁するFoodStorm社を買収し、店舗がケータリングスタイルで大量の既製食品を販売・管理するソリューションの提供に進出しました。このことからも、インスタカートが狙うのは、スーパーマーケットリテールへの包括的なサービス拡充であることが分かります。

インスタカートCEOのFidji Simo(フィジー・シモ)氏も、TechCrunchのインタビューで「われわれは、提携する小売企業のために、次の時代に必要なあらゆるサービスをオンライン・オフライン問わず提供していきます。縦割り構造を取り払った統合的なサービスが必要とされる小売業界において、われわれこそがリテール・イネーブルメント・カンパニーであると考えています。なぜなら、すでに、配送と受け取りの両方をカバーするコマース・サービスを実現する広大なプラットフォームを持っているからです」とコメントしています。

ショッピングカート決済に勝算はあるのか?

フィジー・シモ氏によると、Caper AIの技術は、同社が製造販売するAI搭載型のショッピングカートを購入するだけの“プラグアンドプレイ式”での導入が可能なため、簡易かつ安価に導入できる点がポイントだということです。前回の記事で紹介したJust Walk Out技術のように店舗全体にオーバーヘッドカメラを設置したり、情報を処理するための大規模なコンピューティングシステムを導入したりする必要はありません。

ご紹介してきた通り、現在、無人レジ技術にはさまざまな形態があり、業界全体としてどの技術がメインになるかといった方向性がそもそも定まっていません。Just Walk Outのようにトータルライセンスとして店舗内にさまざまなカメラやセンサー、モニタリングシステムを設置する事業もあれば、Caper AIのようなレジ機能付きショッピングカートを提供する事業もありますし、もちろんレジの操作を顧客自身が行う通常の無人レジも普及していますが、いずれの事業もまだ独占的地位を確立できていません。また、企業側ではやはりコストが導入のネックになっているのが現状です。

例えば、導入するリテール企業側に技術的リソースがない場合、企業は通常の導入コストの他に、技術導入のサポートを受けるコストも負担する必要があり、ハードルが高いのです。しかし、AI搭載のショッピングカートを購入して店舗に設置するだけであれば、この導入の壁は越えられるかもしれません。

物体検知AIが自動的に商品を認識。画像はWebサイト内の動画より

値段は自動的に計算される。画像はWebサイト内の動画より

レコメンドされた食材で必要なものがあれば、売り場まで案内してくれる。画像はWebサイト内の動画より

大規模導入の課題として、雇用の問題がある(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

CaperのWebサイトによると、Caper AIショッピングカートの特徴は以下の通りです。

・通常のショッピングカートに比べて18%大きいAI搭載型のショッピングカートである
・99%の精度で商品を認識できる
・顧客満足度は9割を超える
・導入後10カ月で投資費用を回収できる
・2万平方フィート(約1860平米)以上の面積の店舗であれば、どのような店舗でも導入できる

商品をカートに入れる際に物体検知AIが自動的に商品を認識します。そのため顧客はバーコードスキャンなどをする必要がありません。

商品はディープラーニングを使って特定します。カートにははかりが搭載されているため、計り売りの商品を購入した時は自動的に値段を計算してくれます。

パスタをカートに入れたと認識すると、カート上の画面で、「おすすめレシピ」を表示。レシピに必要な食材が売っている場所まで案内してくれます。初めて訪れるスーパーは店内で迷うものですが、これで安心です。

カートに搭載されているセンサーのおかげで、顧客一人一人の店内での動線を可視化、データ化して解析できます。また、どの棚のエリアが人気か、あるいは混み合うのかといった棚ごとの分析も行えるため、その結果を店舗内のレイアウトの最適化などに生かせるでしょう。

そして何よりも、店舗で既に使用しているPOSシステムや決済プロセッサを変更する必要がなく、カートを導入するだけでよいため、理論上は簡単に導入できることが分かります。

大規模展開に向け、立ちはだかる課題とは?

このようにメリットが多いように感じられるAI搭載ショッピングカートですが、実際に導入したスーパーマーケットの名前を見ると、Caper AIの本社があるNYの地元スーパーが多いようです。このことから、大手スーパーがこのようなAI搭載ショッピングカートを導入することには特有の課題があると考えられます。

例えば、レジ打ち係の雇用問題です。理論上、既存のショッピングカートを全てCaper AIカートに変えてしまったら、レジ打ち係の人は必要なくなります。Caper AIカート一台の導入費用は公開されていませんが、レジ打ち係の人件費が時給15ドルと仮定した場合、諸経費を入れるとコストは一時間30ドルほど。週に20時間の勤務だと仮定すると、一人当たり月に約2400ドル(約27万円)のコストになります。

前述の「カート導入後10カ月で投資費用を回収できる」というCaper AIの計算の内訳は公開されていませんが、内訳には削減できる人件費やおすすめ商品提示などによるバスケット単価向上分の金額が含まれていることは明らかです。とはいえ、大規模チェーンが実際に導入を検討するに当たっては、前述の「レジ打ち係の雇用をどうするのか」といった社会的、道義的な問いに答えを出す必要があります。同時に、Caper AIショッピングカートの導入が経済的、戦略的に見て意味を成すものでなければならないなど、複雑な要因の存在が考えられます。その壁を乗り越えられるかどうかも、今後の大規模展開の課題の一つであるといえるでしょう。

また、ショッピングカートという比較的導入が簡単な「モノ」に決済機能をまとめたことによるリスクもあります。代表的な例が、盗難や故障です。もちろん、カートには盗難防止センサーなどがついていることが予想されますが、顧客の体験向上を考慮し、駐車場までは自由に持ち運びができるとのことです。そのため、外に出した際に故障してしまったり、盗難に遭ってしまったりするリスクも高いでしょう。AI搭載カートは一台の単価が高いため、このような盗難や故障による損失が大きい点には十分な配慮が必要です。

今後、無人レジ市場はさらに形態や技術が複雑化していくことが想像されます。無人レジを導入することで得られるメリットは顧客には大きいことが分かりますが、店舗にとっても同じくらいメリットがある必要があります。そのため、最終的には、無人レジを導入する店舗側に寄り添ったサービスとビジネスモデルを提供できる商品が残るのではないでしょうか。

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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