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Zillowは何故AI経営に失敗したのか?-ビジネスインサイダー 寄稿

2021/12/27 メディア掲載実績, ビジネスインサイダー 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

ニューヨークの街並み。
REUTERS/Lucas Jackson

米不動産テック大手Zillowの大失敗に見るAI経営の教訓…「予測モデルの過信」「目標設定のミス」は他人事ではありません-ビジネスインサイダー寄稿記事 掲載

https://www.businessinsider.jp/post-248629

こんにちは。パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナーの石角友愛です。

2021年最後の寄稿は、「著名不動産テックの新事業“ZillowOffers”はなぜ大失敗したのか」を考察します。

Zillowは、不動産情報サイト運営を手がける米国最大の不動産仲介マーケットプレイスです。2006年に創業して以降、米国の不動産情報に関するウェブ検索の約3割はZillowが持つとされ、取り扱う物件数は1億3500万件以上。2020年にはZillowウェブサイトに訪れる毎月のユニークビジター数が3600万人を記録しました(Zillowウェブサイトとアプリに関する統計はこちら)。

Zillowのビジネスモデル

Shutterstock

Zillowの従来のビジネスモデルは、家を売りたい人と買いたい人を集めるマーケットプレイスでした。主に、その仲介役の不動産エージェントに向けたビジネスモデルを特徴としています。賃貸用の不動産を管理している業者向けにリスティング手数料を徴収したり、不動産エージェントが良い物件をリスティングする際にプレミアムプログラムなどを提供することで収益を得ています。

ここで、日米の不動産市場の違いとして、アメリカの住宅不動産市場における「エージェント」の存在が、いかに重要であるかを理解する必要があります。

売り手は、家を売りたいと思ったらまずエージェントに相談をします。そして、エージェントから家の価値を高めるためのアドバイスなどを受け、修理を含めた売却準備を進めます。

エージェントを通して家をZillowなどのサイトにリスティングし、エージェントがそのリスティングに家の価値や詳細、写真などを全て掲載します。買い手もまた、気に入った家が見つかればその物件を掲載したエージェントに連絡をとって交渉します。

このように、アメリカでは物件売買のプロセスにおいてエージェントが欠かせない存在なのです。

表面的に不動産をリノベして売り捌く「ホームフリッピング」とは

出典:Zillow

しかし、近年、高い仲介手数料(通常売値の5%前後)を払うことを回避したい、より自分がコントロールできる環境で家を売りたいという売り手向けに台頭してきているのが、次に紹介する「ホームフリッピング」を行う事業者です。

実際、収益源の多様化を狙ってか、Zillowも2018年より「Zillow Offers」という事業に力を入れていました。事業部は当初、iBuying(インスタントバイング)と呼ばれており、その内容は、アルゴリズムを利用して住宅を迅速に査定し、Zillowが安く購入した上で、表面的なところだけをリノベーションして高値で販売するという、英語でいうところの「ホームフリッピング」事業でした。

フリップするというのは「ひっくり返す」という意味です。Zillow Offersのように安い家を購入して簡易的にリノベーションをして短期間(通常3カ月から6カ月以内)で売ることを専門にする業者は、数多くいます。Zillowのホームフリッピング事業は、通常の買い手よりも低い価格で購入することが特徴で、その代わり購入手続きが早いことと、オールキャッシュ(全額現金での取引)の取引であることが、売り手を引きつける要因となっていました。

しかし、Zillowの共同創業者でCEOのリチャード・バートン(Richard Barton)氏は、2021年の11月に突如、Zillow Offers事業部を閉じることを発表しました。事業閉鎖のため、全体の25%にもあたる2000名以上の従業員を解雇し、保有していたおよそ7000件もの不動産を、プライベートエクイティーファームなどに売却しました。売却された不動産の総価値は28億ドル(約3200億円)にも及び、Zillowの評価減額としては、実に5億ドル(約570億円)にものぼるとのことです。

「570億円の評価減」米大手不動産仲介Zillowの失敗

出典:Zillow

そもそもなぜ、Zillowは一見リスキーにも見えるホームフリッピング事業に参入したのでしょうか。そして、なぜZillow Offersは失敗してしまったのでしょうか。

その背景には、2006年に開発された独自の不動産価格予測アルゴリズム「Zestimate」(”Zillow”に「見積もり」を意味する”Estimate”をかけた造語)の存在がありました。

Zestimateは、アメリカにある何百万もの住宅査定額のデータを活用し、地域の不動産価格変動や家の属性情報などを教師データとして学習しています。このアルゴリズムを使えば、数カ月後に家の価格がどれくらい上がっているかを、予測することができます。

Zillow OffersはZestimateの予測値をもとに、物件の購入額やリノベーション費用を決め、ホームフリッピングすることで収益を得るという手法を用いていました。Zestimateの予測モデル自体は、近年のデータ量の増加に伴い精度も改善されており、市場に出ている住宅の推定価格はエラー率の中央値が2%以内で収まっているとのことでした。そのため、実際に家の売買をする予定がなくても、自分の家の価格がどれくらい上がっているかを確認するためにZestimateでチェックをする人もたくさんいるほど、米国の消費者向け不動産市場では大きな影響力を持つ指標になっています。

Zestimateはデータサイエンティストの間でも非常に有名なアルゴリズムの1つでした。

データサイエンティストが集まるバーチャルコンペ「Kaggle(カグル)」でも、ZillowはZestimateの精度を高めるために賞金120万ドル(1億円以上)でコンペを開催していました。

Kaggle上にあるZestimateのコンペティションページ。
出典:Kaggle

コンペの課題は、「将来の家の売値を正しく予測する」こと。世界中の優秀なデータサイエンティストに予測モデルを作ってもらい、Zillowは一番良いモデルを賞金と引き換えに手に入れるというものでした。

このような取り組みを積極的に実施していたことからも、会社として、アルゴリズムドリブンな意思決定に力を入れていたことが伺えます。

これは4年以上前のコンペですが、その紹介文には「Zestimateは、各物件に紐づく数百種類のデータポイントを分析し、750万以上の統計モデルと機械学習モデルに基づいた推定住宅価値を実現したものです。エラーマージンの中央値を継続的に改善することで、Zillowはアメリカで最大かつ最も信頼できる不動産情報の会社としての地位を確立しました」と記載されています。

Zillowは、このZestimateを改善することに注力し、100人以上の予測モデル解析者やアナリストを雇って住宅価格の推移をモニタリングしていたとのことです。

コロナが露見させた「AIを過信するビジネスの盲点」

売りに出されているニューヨークの不動産を見る男性。
REUTERS/Mike Segar

しかし、2020年に入り、不動産業界をパンデミックが襲いました。

低金利政策などの影響もあってか、市場がインフレ傾向を辿ることになり、予想以上に住宅の価格が上がっていきました。

不動産価格の急騰はZestimateの精度を狂わせました。また、買い手である消費者の好みも急激な変化を伴いましたが、こちらもアルゴリズムで予測できるものではありませんでした。例えば、「都会からより郊外に」「狭いアパートより広い田舎の一軒家を好む」ような人が急激に増えることは、全て想定外の「ブラックスワン現象」だったのです。

通常、価格予測などのアルゴリズムは過去の実績データや家の特徴などをもとに、将来の価格を予測します。つまり、過去の実績データが多くなればなるほど、大きいデータに引っぱられやすくなります。今回のような突発的かつ深刻な社会状況の変化が発生すると、機敏に重み付けなどを調整することが難しいのです。

ZillowのCEOのバートン氏は、

「住宅価格の変動は我々の予想をはるかに超えており、このままZillow Offersの規模を拡大し続けると、収益とバランスシートの変動が大きくなりすぎてしまい、最終的には想像をはるかに下回る自己資本利益率になる可能性があると判断した」

Zillow Offersが失敗した理由を述べています。

間違ったチームKPI、失敗から見えた教訓

また、Zillow Offersの失敗に拍車をかけたのが、間違ったチームKPIです。

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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