今回は、アマゾンが新しく開設するアパレルストアについてご紹介します。
米国では現在、アマゾンが経営するリテールショップが5種類あります。無人店舗のAmazon Go、食料品のAmazon Fresh、4つ星以上の雑貨やおもちゃがそろうAmazon 4-Star、4つ星以上の本が並ぶAmazon Books、そしてショッピングモールに設置されるAmazon Pop Upです。
※3月2日、アマゾンはこのうちのAmazon 4-Star、Amazon Books、Amazon Pop Upの全68店舗を撤退する計画を発表しました。ロイターでは、実店舗の事業は収益が低く、アマゾンの他事業の成長の足を引っ張っていたと報じています。
しかしそんな中、アマゾンは新しい形態のリテールショップの出店を計画しています。今年1月に発表された、アパレルストアのAmazon Styleです。
コロナ禍でアパレル業界全体は打撃を受けていますが、一方で、ステイホームの影響でラウンジウェアやヨガウェアなどのリラックスウェアの需要が増加しています。アスレチック(運動)とレジャー(余暇)を足した、アスレジャーという新たなファッションジャンルが生まれているほどです。
こうした分野に強い、アマゾンのアパレル売り上げが伸びています。
2021年のWells Fargoの調査結果によると、アマゾンU.S.のアパレルおよびフットウェアの売り上げは20年に約15%伸びて410億ドル以上となり、これは競合のウォルマートと比べて約20~25%も高い数字です。
また、アマゾンは米国全体のアパレル消費では約12%を、米国のEC上でのアパレル消費で言えば約35%ものシェアを占めています。記事では、アマゾンは今や米国最大手のアパレルリテーラーになったと書かれています。
ECアパレル業界でいえば3分の1以上のシェアをアマゾンが占めていますが、全体を見ると、8割以上の消費がその他の店舗などで行われていることが分かります。この未開拓の市場に進出するために、Amazon Styleがオープンするのだと考えられます。
1店舗目は、22年中にカリフォルニア州のグランデール市で展開を予定しています。
Amazon Styleはどんな店舗になるのでしょうか。
Amazon StyleのマネージングディレクターであるSimoina Vasen氏がCNBCの取材に対し「われわれは、10ドル程度のベーシックなアイテムから、デザイナーズジーンズや400ドルする流行に左右されない定番のアイテムまで、あらゆる予算、あらゆる価格帯に対応した商品を取りそろえたい」と話しました。
売り場はおよそ3万平方フィート(約2787平方メートル)で、平均的な百貨店よりも小さいサイズです。
公式サイトでは「Amazon Styleは、Amazonのファッションへの愛と革新的なテクノロジー、そしてワールドクラスのオペレーションを融合させ、お客さまが気に入る商品を見つけられるようサポートします」と謳われています。
Amazon Styleでは、試着室に入るまでのフローもアプリで管理されています。試着室には大きなパネルがついており、アプリを通して「24番にお入りください」と通知が来たら、24番の試着室に自分で入ります。
米国では試着室に入るのに大行列ができることが多いため、アプリで自分の順番が通知されるまで並ばないでよいことは、顧客体験の向上という点で大きな競争優位性をもたらします。また、列に並ぶ必要がなくなることで、結果的に顧客が店内で商品を見て回る時間も長くなるため、客単価が上がることも想定できます。
試着室に入ると、「◯◯さん、ようこそ」と名前が記載されたスクリーンがスタンバイしています。このスクリーンは、パーソナライズしたアイテムをレコメンドしてくれます。また、アマゾンフルフィルメントセンターの技術により、利用客は追加で試着したい商品をタイムリーにリクエストし、自動的に届けてもらうことができます。
通常、米国のアパレルショップでは、追加で試着したい商品がある場合には店員に持ってきてもらうことが一般的です。しかし、コロナ禍でそのようなサービスを中止しているお店が多くなっています。さらに、米国のアパレルショップは一般的に店員の数がとても少ないため、一度試着室に入ると、追加で別のサイズを試着するのは至難の技です。
しかし、Amazon Styleではパネルでオーダーをすれば数分で試着室に届くということですから、この点でも他の小売りとの差別化が図れることでしょう。
コロナをきっかけに消費者のアパレルショッピングの動向も変わってきているようです。
New York Timesの記事によると、21年に金融サービス大手のコーウェンのアナリストが行った調査では、ミレニアル世代の消費者の34%が、アパレルを購入する際にまずアマゾンを検索すると回答したそうです。
また、約17%はまず百貨店チェーンや会員制の大型ディスカウントショップに足を運んだと回答し、15%はグーグルで検索をしたと回答しています。アナリストは、Z世代とミレニアル世代の消費者は、従来の小売店が営業を再開しても依然としてアマゾンに依存していると指摘しています。
こうした中で、Amazon Styleについて特筆すべき点として、機械学習を活用していることが挙げられます。公式サイトによると、Amazon Styleはパーソナライゼーションを軸に構築されており、顧客の買い物中に、機械学習アルゴリズムがリアルタイムで一人一人に合わせたレコメンデーションを作成しているとのことです。
例えば、顧客がストアを見て回り、目にとまった商品をスキャンすると、その顧客にぴったりな別の商品をレコメンドします。さらに、スタイルやフィット感などの個人的な好みの情報を共有することで、顧客はより洗練されたレコメンデーションを受けることができます。加えて、Amazonショッピングアプリでも、自分の好みに合ったセール中の商品を簡単に確認できるようになるといいます。
Amazon Styleの展開により、アマゾンが競合ウォルマートとは異なるセレクションで、よりファッショナブルなアパレル商品を店舗に置き、今までアマゾンでアパレルを購入しようと考えなかった層にリーチできる可能性があります。
ファッション感度が高い顧客層を取り込むには、非接触技術や試着室での顧客体験だけでは訴求力が足りなく、やはり品ぞろえが重要になってきます。その点、アマゾンは近年では「オスカーデラレンタ」や「エリーサーブ」などの高級アパレルブランド商品をEC上で数多く取りそろえるようになっており、カテゴリー拡充にも力を入れています。
米国の一般的なファストファッションのアパレルショップでは店員の数がいつも足りなく、レジと試着の返却などを同じ窓口で対応するところが多いため、長蛇の列になっていることが多いのが現状です。
こうした列がなくなることにより、顧客がより快適に買い物をできるという利点は大きいでしょう。
アマゾンの他の形態の実店舗事業が撤退を決めた中、Amazon Styleは成功できるでしょうか。オープンの日を、楽しみに待ちたいと思います。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2203/07/news011.html
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
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2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
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