今週の注目カンパニー「Etsy」
人間と機械のコラボレーションを活用するために、AIなどのデジタル技術に大規模な投資を行っている企業は、コロナウイルスの大流行にも限らず収益を劇的に向上させていたことがHarvard Business Reviewの研究論文で分かっています。しかし、AIに高度な学習をさせるためには、そもそも人間がイノベーションを構想して管理する必要があることから、これからの時代の成功には、AIに対し、人間を中心としたアプローチをとることが重要だと再認識されています。
ヴィンテージやハンドメイド商品を扱うオンラインマーケットプレイス「Etsy」は、企業理念に「Keep commerce human」を掲げています。同社ではテクノロジーの浸透で、自動化が進む中でも取引の中心に人と人とのつながりを保つことが使命と考えており、同社の検索エンジンに、購買の決め手となる「美的センス」を教えるのは、人間でなければできなかったといいます。
Etsyの顧客は、商品の購入を検討する際、サイズ、素材、価格、評価などの詳細だけでなく、スタイルや美的センスも重視するといいます。しかし、スタイルによる分類は特に難しかったといいます。多くのスタイルベースのレコメンデーションシステムは、買い物客のグループに対して、説明のつかない商品を提案していたといいます。それは、AIが、共通の顧客層がよく一緒に購入する2つの商品は、スタイルが似ているはずだと思い込んでいたからです。
そこでEtsyでは、AIに主観的なスタイルの概念を学ばせるのに、所属するマーチャンダイジングの専門家が指導することが最適だと考えました。専門家の経験をもとに、ジュエリーからおもちゃ、工芸品まで15のカテゴリーで、好みをとらえた42のスタイルラベルを開発しました。
「アールヌーボー」や「アールデコ」など、アートの世界ではおなじみのラベルもあり、楽しさや、ユーモア、インスピレーションなどの感情を呼び起こさせます。
次に、スタイルに関連する言葉を検索する傾向のある顧客に注目しました。このような検索に対して、Etsyでは、ユーザーが検索中にクリックしたり、「お気に入り」に登録したり、購入したりしたすべてのアイテムに、選択したスタイル名を割り当てたといいます。このような調査を1ヶ月間続けた結果、スタイル分類をテストするための300万件のラベル付きデータセットを収集することができたといいます。最後に、テキストとビジュアルを手がかりに、各アイテムの分類を最もよく区別できるよう、ニューラルネットワークをトレーニングしました。
その結果、Etsy.comのアクティブなアイテム5000万点すべてにおいて、スタイル予測をすることが可能になったといいます。このスタイル予測は、コロナウイルスの大流行で量販店のサプライチェーンが崩壊したときに特に有効で、多くの顧客が、スタイリッシュなマスクを求めてEtsyを利用したといいます。その結果、マスクの売上は、2020年4月上旬にはほとんどゼロだったのが、その後1年間で約7億4,000万ドル(約884億円)に達しました。
この間、同社の売上は2倍以上に増え、市場価値は220億ドル(約2兆6280億円)にまで上昇しました。この成長のカギは、購入者が「自分のセンスやスタイルを表現した」マスクを見つけられるようにしたことだといわれています。
AIで多くの企業が成功する理由の共通点は、優れたアルゴリズムだけではなく、人がもつ専門性をいかにうまく活用するかという点で、非常に参考になる事例ですね。 |