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リテールメディアとは?デジタルサイネージの将来-ITmedia

2022/04/01 メディア掲載実績, ITメディア 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

日本でも店頭でよく見る、お買い得商品を記載したフライヤー広告

リテールメディアとは?デジタルサイネージの将来-ITmedia寄稿記事掲載

2000人以上の米国人を対象に行った調査で、コロナ禍でも80%以上の人がオンラインではなく店舗での食料品購入を好んでいることが分かりました。また、食品カテゴリー別に見ると、冷凍やチルドの棚に並ぶ商品の需要がコロナで急増し、20%以上も増えています。

小売店舗の強みは、消費者との接点を持っていることです。その強みを生かし、店舗内でさまざまな消費者マーケティングを実施し、デジタルサイネージなどを導入して広告ビジネスを構築しようという動きがあります。

古典的なものでいえば、店舗の入り口に置かれた「本日のお買い得商品」を記載したフライヤー広告や、店舗内に設置された小さいデジタルスクリーン上に表示されるお買い得商品の案内などもその一種です。

また、以前この連載で紹介した日本のスーパーマーケットチェーンであるトライアルのデジタルサイネージ付きカートの導入なども、その一例といえます。

オンラインとオフライン、同じ小売りでも異なる「広告の在り方」

このように、小売店舗は消費者との接点を持つという強力なポジショニングを確立しています。その一方で、広告主を集め自動的に配信するという広告配信プラットフォーム(リテールメディアプラットフォーム)を独自に持つような技術投資までは行っていないところがほとんどです。

通常、小売店が消費者向けのプロモーションを作るときは、メーカーと共同でプランニングを行い、店内で実装するという形をとっています。例えば、「来月から2週間はメーカーA社の商品Xを1割引きにするキャンペーンを行う」などです。

小売店にとって期待される経済的効果といえば、客単価の向上が主であり、広告収入という観点からは大きなインパクトにはなりません。つまり、オンラインショッピングで広く普及しているアマゾンやグーグルなどのメディアプラットフォームにおける広告ビジネスと、実店舗での広告ビジネスは、似て非なるものなのです。

実際、オンライン上の小売店では広告ビジネスが大きな収益源になっています。アマゾンの広告ビジネスの売上推移を見ると、収益は右肩上がりで、2020年の第4四半期には前年比66%増の79億5000万ドル(およそ9500億円)に達したといいます。

また、アマゾン上で商品を出品している売り主の動向を見ると、75%の売り主が少なくとも1種類のクリック報酬型(pay-per-click:PPC)広告を利用していることに加え、21年の広告への投資額は増加しています。そして、34%の売り主は、これからさらに大きな額を広告費として費やす予定であることが分かっています。

スーパーマーケットなどの実店舗における小売りビジネスは利益率が低く、約2%といわれています。その反面、広告配信は一般的に非常に高利益なビジネスとされており、成長市場であることから、実店舗が広告ビジネスに参入する経済的な理由が大きいことが分かります。

店舗にも「稼げる広告」が

通常のスーパーの冷蔵棚

クーラー・スクリーン社は、冷蔵棚や冷凍棚の扉全体をデジタル広告化する技術を提供している。スクリーンは4K高画質(出典:クーラー・スクリーンのWebサイト)

外気温の情報を取り込み、「外は暑いから冷たいものをどうぞ」というメッセージを表示(出典:クーラー・スクリーンのWebサイト)

そこで今、注目されているのが、「商品棚の扉」という大きな面積を利用したデジタル広告配信です。

シカゴに拠点を持つクーラー・スクリーンというリテールAIの会社が提供する技術は、モーションセンサーとカメラのシステムを使って、ドアの内側にある商品の情報や価格、お買い得品、そしてブランドにとって最も訴求効果の高い有料広告を表示するというものです。同社はマイクロソフトベンチャーズなどから8000万ドル(およそ95億円)以上もの資金調達をしている、注目リテールAIスタートアップです。

この技術によって、店舗には新たな収入源を、消費者には新しいショッピング体験を提供します。同社のWebサイトによると、現在約1万台のスクリーンがさまざまな小売店舗に導入されており、月間およそ9000万人の消費者に広告が視聴されているといいます。

冷凍棚や冷蔵棚の大きな扉を利用して、メーカーの商品を扉全体に表示させるなど、感情訴求型の広告を表示できます。例えば、アイスクリームが陳列されている冷凍棚では、外気温に合わせたプロモーションもできます。

強みはAI搭載エッジコンピューティング

クーラー・スクリーンが提供する扉には、エッジコンピューティングとAIが搭載されており、また、棚の中にはセンサーが設置されています。品切れ商品の通知や、価格管理システムなどもあり、広告主であるメーカー企業に対して、さまざまなPOS関連のデータを可視化する分析ツールを提供しています。

分析ツールからは、広告ごとの売上指標や、品切れ商品の状況、増加した売上機会の数値などの情報を得られます。これにより、例えばグーグル広告などで広告運用を行っているデジタルマーケターがキャンペーンのパフォーマンスをモニタリングするように、自社ブランドの広告キャンペーンをそれぞれの店舗の冷凍棚で表示したときの経済的効果をモニタリングできるようになっています。

AIがどのようなところで使われているかは公開されていませんが、IoTデバイスから取得するデータを使って品切れ検知を行うモデルや、プロモーションの最適価格レコメンド、広告主から提供される広告在庫と広告表示順序などを最適な組み合わせにすることで、広告主の費用対効果を最大化させる配信システムの中などにAIが使われているのではないかと考察できます。

クーラースクリーンが提供する機能は以下のようにまとめられます。

Cooler Edge(クーラー・エッジ)

店舗で消費者とのタッチポイントとなるテクノロジープラットフォーム。物理的なショッピング環境にエッジコンピューティングを直接組み入れることで、最高の消費者体験を提供。また、「アイデンティティーブラインド」という消費者のプライバシーを重視した設計になっているため、消費者の機密データが収集、使用されたり、危険にさらされたりすることは一切ない。この安全なAPIを使用することで、小売業者やブランドはクーラー・エッジの機能を拡張し、カスタムアプリケーションと統合できる。

Cooler Media(クーラー・メディア)

マーチャンダイジングおよび広告キャンペーン策定アプリケーション。小売業者やブランドに対して、戦略的なコンテクストプロモーションやデジタルプロノグラム(商品配置)のデザインを提案するほか、効果的な商品ディスプレイやリアルタイムでの価格設定を行う機能を提供する。小売業者やブランドは、このクーラー・メディアを使用することで、消費者が店頭で購入の意思決定を行う重要な瞬間を有効に活用できる。

Cooler Analytics(クーラー・アナリティクス)

独自の分析エンジンにより、消費者行動、プロモーション効果、在庫、コンプライアンスに関する深い洞察を提供するツール。大規模なデータインフラのほか、機械学習やその他の高度な分析技術を用いることで、消費者の行動パターンをリアルタイムで可視化する。

Cooler Marketplace(クーラー・マーケットプレース)

メーカーやブランドはクーラー・スクリーンの広告枠を購入し、キャンペーンを管理できる。クーラー・マーケットプレースでは、オファーの内容・配信時間・配信場所・配信対象等を細かく最適化する。さらに、キャンペーン管理、A/Bテスト、分析、イールドマネジメント、需給最適化など、広告ライフサイクル全般をサポートする。

これらの機能の中でも、クーラー・マーケットプレースには特筆すべきものがあるといえます。広告主は、冷凍棚の扉1つ分、複数分、または扉の中のバナー広告、商品の成分に関する広告など用途に応じたさまざまな大きさの広告が選べることが特徴です。

では、実際のところ、クーラー・マーケットプレースではどれくらいの広告効果が見込めるのでしょうか。

クーラー・スクリーンのWebサイトによると、あるビール会社がクーラー・スクリーン上で行った広告キャンペーンの結果、購入頻度が2.2%アップし、広告の費用対効果も上がったということです。また、あるアイスクリームメーカーがクーラー・スクリーン上で広告配信したところ、消費者のブランド認知が7%アップしたという調査結果もあります。

また、小売店舗にとっての経済的効果としては、客単価が上がることで店舗ごとの売り上げが50~100%アップし、クーラー・スクリーンによる広告商品の売上成長率は、非広告商品と比較して2~10倍にもなると記載されています。

米国ドラッグストアチェーン大手のウォルグリーンでは18年よりクーラー・スクリーンの試験的導入が始まっており、現在は約700店舗で展開しているとのことです。同社の担当者は、CNNのインタビューに対して「当社では、お客さまに新しい体験をお届けするために、積極的なデジタル・イノベーションの探求に取り組んでいます」と期待を寄せた回答をしています。

今後の課題

小売店舗にとって新しい収益源となる可能性があるクーラー・スクリーン導入による広告ビジネスですが、課題がないわけではありません。

一番大きな課題が、消費者からの嫌悪感です。実際に、SNSには「ウォルグリーンに水を買いに行っただけなのに棚の扉が広告で埋め尽くされていて、中に何があるのかが見えなかった」「スクリーンにアイスクリームが表示されているから購入しようと思って扉を開けたら棚が空っぽでがっかりした」というような内容のビデオが投稿されています。

今後は、スクリーンの透明度を高めて扉を開けなくても中が見えるようにすることや、棚の中と広告表示内容が一致しているようなデータクオリティーの担保や、在庫補充のオペレーション統一などが課題になってくるでしょう。

また、ジョージア大学のマーケティング准教授で、消費者行動を研究しているフリオ・セビリア氏からは「人々はこれまで培ってきたルーティーンを大切にしており、誰もが刺激的な新しい顧客体験を求めているわけではない」という声もあがっており、そもそも商品棚全体をデジタル広告スクリーンに変えることが、消費者の求めていることと合致するのかという点が疑問視されているのも事実です。

しかし、KrogerやCVSなどの米国大手小売チェーンが続々とクーラー・スクリーンの導入を発表していることから、小売店側としては、消費者の店舗内体験向上よりも、店舗ごとの売上向上や広告ビジネスの拡大を優先しているようにもうかがえます。

テレビのCMやYouTubeの広告などからもいえるように、広告というのは本来無料でサービスを受ける代わりに表示されるものであり、これまで消費者はある程度我慢をして広告を受け入れてきました。

もちろん、ターゲティングなどの広告技術が進歩したことで、これまでよりも消費者のニーズに沿った広告を表示でき、広告に対する嫌悪感が以前よりは減ってきている可能性はあります。しかし、スーパーマーケットやドラッグストアなどの店舗に足を運ぶ消費者は、商品を購入しに足を運んでいるのであり、何か無料のサービスを受け取りに来ているのではありません。

今後、消費者が店舗内の巨大な広告サイネージを見てどう思うのか、どのような意思決定につながるのかという点は、注意深く検討する必要があるといえます。

同時にプライバシーの問題も懸念されています。前述の通り、クーラー・スクリーンではプライバシーを第一に考えており、「Identity-blind(個人のアイデンティティーが見えない)」技術であることを打ち出し、経営陣にはプライバシーの専門家もいることから万全の対策をとっていると同社のWebサイトには記載されています。

また、個人が特定できないようなセンサーを搭載しているということですが、ターゲティング広告やパーソナライズした広告に対するルール強化が起きている今日、消費者のプライバシーに対する意識が高まってきています。大きな広告スクリーンが店舗内に大量に設置されている店舗で、心地よく買い物できる消費者がどれだけいるのか──といった点についても、消費者の心象や判断をしっかりとモニタリングする必要があるでしょう。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2204/01/news013.html

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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