ウクライナ情勢を背景に、物価上昇が止まらない時代。そんな中で、エネルギー価格の高騰や省エネルギー問題も話題に上がっています。
特に昨年以降、日本では上場企業に対して、気候変動リスクに関する情報開示を義務づけるよう検討を進めています。いずれも、金融庁と東京証券取引所が6月に改定した「コーポレートガバナンス・コード」に新たに盛り込まれたものとなっており、プライム市場に位置する上場企業が対象となっています。また、これらの情報開示において、主要国の金融当局が主導する「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づく開示が求められているのです。
2015年には、各企業が設定する温室効果ガス排出削減目標となる「SBT」も誕生しました。パリ協定を契機に、脱炭素化に向けた動きが経営にも深く関わっているのです。そのため、いち早く脱炭素経営の取り組みを進めることにより、他社との差別化を図ることができるでしょう。
そこで今回の記事では、物価上昇とSDGsの時代において有効的なAI活用をした「DeepMind」の事例を紹介したいと思います。この会社は、グーグル傘下のAI開発会社として設立され、Googleの莫大な電気代削減プロジェクトを担っていました。実際に、データセンターの冷却ユニットのエネルギー消費を40%削減することに成功しており、物価上昇の時代にAIを活用した例として注目されています。
ぜひこの記事を通して、物価上昇の時代にどうAIを活かすのか、考えるきっかけにしていただければと思います。
CNBCによると、原油価格は3月に過去最高値を記録して以降、20%以上も下落したのち、再度100ドルを超えるなど、非常に不安定な状態が続いています。原油先物価格に関しては、その後3%の価格上昇も記録しました。
出典 : Bloomberg
また、とあるエネルギー調査会社の調査によると、今年の夏までに原油価格が1バレルあたり240ドルになる見込みもあるとのことです。そのため、今後はさらに原油価格が上昇するでしょう。
最近では、3月16日に発生した福島沖地震の影響による火力発電所の停止を受けて、電力需給のひっ迫が起こりました。結果的には節電の効果もあり、警報は解除されたものの、東京電力管内の電力供給力が不十分であることも明らかになっています。
このような状況から、「電気が足りないから、節電をしなければ」と思う方も多くいるでしょう。しかし、家庭内では節電できても、企業として効果的に電力を使用するにはどうしたらいいのか、なかなかイメージしづらいですよね。
そこで紹介するのが、DeepMindの事例です。
出典 : DeepMind ブログ
大前提として、必ずしも節電にAI技術が必要になるわけではありません。しかし、企業が取り組む事業内容によっては、大きなインパクトを生む可能性を秘めています。
その一例が、データセンターの運営です。これは、GoogleやAmazon、Microsoftなどの大手IT企業の利益を支えるクラウド事業とも密接に関係しています。
クラウド事業におけるデータセンターの運営には、たくさんのサーバーを集める必要があります。その時、大きな部屋の中で常にサーバーが回っている状態であるため、サーバーを冷却する工程が必要になるのです。
通常の冷却装置としては、壁吹き出し空調方式(過大な発熱に対し、室内の壁一面の開口部から冷たい空気を吹き出す方法)や、リアドア空調方式(サーバーラック背面の廃棄側に空調機を取り付け、直接冷却する方法)といった技術を使いますが、これらは消費電力が非常に大きいという課題を抱えていました。
そこで、DeepMindが取り組んだのが「アンサンブルディープニュートラルネットワーク」の開発です。これは、複数のAIの学習結果を組み合わせて、より確からしい結果を導き出す深層学習の手法のことを指します。
これを開発することで、データセンター内に何千ものセンサーを設置し、温度や湿度、ポンプの速度など、必要なデータを全て取得することができたのです。
なお、このプロジェクトはデータセンター内のエネルギー効率を向上させることが目的でした。そのため、建物の総エネルギー使用量とITエネルギー使用量の比率である将来の平均PUE(Power Usage Effectiveness = 電力使用比率)を用いてニュートラルネットワークを学習させました。その後、さらに複数のディープニュートラルネットワークのアンサンブルをトレーニングした結果、「1時間後のデータセンターの温度と気圧の予測」に成功したとされています。
データセンターの温度や気圧が1時間ごとに予測できるようになれば、それに合わせた空調や稼働時間の調整が可能となります。これにより、無駄な冷却装置の稼働を減らし、電力消費の削減が実現できたということです。
この制御には大量のデータが必要となるため、人間が集めることは非常に困難でした。そのため、ディープニュートラルネットワークを活用することにより実現できた一つの事例と言えるでしょう。
以下は、同社のブログ記事からの抜粋です。
「この技術は、グーグルのクラウド上で稼働している他の企業にとっても、自社のエネルギー効率を向上させるのに役立つでしょう。データセンターの効率が向上するごとに、環境への総排出量が削減されます。DeepMindのようなテクノロジーを利用すれば、機械学習を利用してエネルギー消費を抑え、最大の課題の一つである気候変動への対処を支援することができるのです」
このように、エネルギー価格高騰のインフレ時代に突入した今、AIを活用して電気代の削減、省エネを実現することは企業にとって重要課題になってきます。
SDGsやESGという観点からも省エネ実現は企業の大きな目標になるでしょう。その実現のために、AI活用を考えてみてはいかがでしょうか。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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