2021年に開催された東京オリンピックまでの期間、建設需要が非常に高く、大きな経済効果をもたらしてきました。しかし、一見好調な建設業界も業界特有の文化が多く課題がまだまだ山積されている状態です。この建設業界の課題を解決するためには、デジタル技術の活用が必要不可欠です。そこで今回は、建設業特有の課題と、課題解決に導くためのデジタル技術を用いたDX事例をご紹介します。建設DXについて興味がある、建設業界の課題を改善したいという方はぜひ参考にしてみてください。
建設業界には様々な課題があります。まずはどのような課題があるのか解説していきましょう。
建設業界は再開発事業や震災の復興事業などで需要はあるものの、深刻な人材不足が問題となっています。人材不足は建設業界だけの問題ではなく、日本の労働人口は減少の一途をたどっていることから今後さらに深刻な状態になると懸念されているのです。特に建設業界は若い人材が集まらなくなっており、40代・50代が中心となって活躍している職場も多いといいます。このボリュームゾーンである40、50代の離職が続くとしてしまうと、さらに建設業界では人材不足に陥ってしまうと考えられています。この人材不足を解決するためには、3K(きつい・汚い・危険)の悪いイメージを払拭し、労働環境を整えていく必要があります。
人材が不足することで起こってしまうのが、長時間労働の問題です。1人あたりの労働時間が長くなり、慢性化することでさらに労働者が減ってしまい、人手を確保しようにも長時間労働のイメージが付いているため人が集まらないという悪循環に陥ってしまいます。実際、厚生労働省が発表した労働統計要覧の2019年産業別月間実労働時間数を見ると、30人以上の事業所規模で、建設業の実労働時間は、月間170.7時間(所定外20.8時間)を記録しています。これは、他の業種と比べても高い数字となっています。一方で、2016年の175.1時間に比べると少しずつ改善されてはきているものの、さらなる改善が必要だと言えます。
団塊の世代が60歳を迎えたことで大量の定年退職者が出ると発表されていた「2007年問題」の時点から、ノウハウの知識化・マニュアル化の遅れが指摘されていました。特に建設業界はアナログでの業務が多かったことから、ノウハウの知識化・マニュアル化の遅れは深刻で、今でも従業員の感覚に頼っているところもあります。さらに、人材不足が深刻になっている中で現場での作業が多いことで若手の育成に注力できない傾向にある企業も多いです。この影響から若手の技術力低下やさらなる人材不足を招いてしまう恐れがあります。
建設業界で悪循環をもたらす3つの課題はDXによって解消する可能性が非常に高いです。現在大手建設企業を中心にDX推進が行われていますが、現場ではまだまだデジタル化が進んでいない業務も多く見られます。野原ホールディングスが実施した「建設現場のデジタル化」に関する調査の中で、「建設業界のDXについてどのように思いますか?」という質問に対し、業界全体のデジタル化が進んでいると回答したのは36.9%でした。プロセス別に見ると最もデジタル化が進んでいると感じている「設計」でも48.4%で半分に満たず、DXが遅れている原因には「デジタル化できない作業が多い」「現場変更が多くデータ更新できない」などが挙げられています。その一方で、デジタル化に対応できないと将来に不安があるというのは66.2%が回答しており、意識と現実のギャップをどう埋めるのかが課題になっています。
まだ完全にデジタル化が進められているわけではありませんが、企業によっては着実にDX推進が行われているところもあります。具体的にどのような取り組みを行っているのか、事例をご紹介しましょう。
清水建設では、新東名高速道路川西工事において、測量や設計、施工、検査、納品のプロセスの中で3次元データを活用しICT化を行う「ICT-FULL活用工事」が取り入れられました。ドローンなどUAVを使った測量と、点群データを活用したことで出来高測量や仮設道路計画の80~90%近くも省力化させることに成功しています。また、VR技術を活用して遠方からでも現場を確認することで移動時間をなくし、会議時間の80%を削減したと言います。
奥村組では2020年4月からICT統括センターを創設し、現在に至るまで様々な取り組みを実施しています。その中でも特に力を入れているのが、遠隔臨場の推進です。遠隔臨場とは、発注者や担当者が現場に出向き確認・検査を行わなくても、遠隔から立ち会うことを指します。奥村組では遠隔臨場を行うためにV-CUBEコラボレーションという、音声認識型スマートグラスと会議システムが一つになった遠隔臨場ツールを採用しました。現場と事務所、発注者で会議システムを起動し、現場のスマートグラスから映し出された映像を共有していきます。これにより担当者が現場にいなくてもしっかりと確認を行えて、なおかつ移動時間などのコストも解消させることが可能となりました。
建設DXでは様々なデジタル技術が活用されています。実際にどのような技術が建設業界で活用されているのかご紹介しましょう。
AIはデータの集計から分析、機械学習(ディープラーニング)まで、様々な技術が建設DXに用いられています。例えば現場で撮影した画像や映像をAIが自動判定し、構造に不備がないか確認することも可能です。これまで人間が目視で行わなくてはいけなかった作業AIが補助することで負担が軽減し、長時間労働の是正にもつながります。また、継続的にデータを蓄積することで、さらに精度の高い判定ができるようになります。
ICT(情報通信技術)は、PC・タブレットなどからオンラインで作業を進めたり、情報を共有したりする技術です。DXでは土台となる技術であり、単に情報共有を行うだけでなくドローンやAI搭載の重機と通信する際にも活用されています。
上記の事例でもドローンや映像分析技術を活用し、DX推進を図る企業は増えています。特にドローンを使った測量は精度が高いだけでなく、現場で作業する人の数が減るのでその分安全性の確保にもつながっています。
今回は建設業特有の課題から、解決するための建設DXについてご紹介してきました。今後も日本では労働人口の減少が進み、建設業界全体で人材不足の深刻化が懸念されます。特に建設業界はアナログ業務の多さと人材の高齢化に伴い、デジタル化が進みにくいという現状もあります。突然アナログで進めていた作業をいきなりデジタル技術を使って処理をしようとすると、従業員が付いていけなくなってしまう可能性も高いです。そのため、まずは少しずつIT化を図っていく必要があります。DX推進によって建設業特有の課題から解放されれば、企業としての前進にもつながるでしょう。
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AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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