フードデリバリーの浸透に伴い、実店舗を持たない“ゴーストレストラン”が日本でも増え、話題になっています。
今、米国ではこの業界が多様化していることをご存じでしょうか。多様化の背景には、ゴーストレストラン運営ならではの課題があります。
今回は発展するゴーストレストラン業界の現状を紹介したいと思います。
一般に、ゴーストレストランを実現するには、3種のプレイヤーが必要です。
(1) レストラン
(2) シェアキッチン
(3) 宅配アプリ
通常のゴーストレストランは(1)レストランの運営者や個人事業主であるシェフが、(2)のシェアキッチンに毎月定額使用料などの料金を払い、格安で運営。集客は全て(3)の宅配アプリに任せます。オーダーが入ったらシェアキッチンで調理して、(3)の宅配アプリにデリバリー機能はお任せする、という仕組みです。
ゴーストレストランの特徴は、通常のレストランを開店することに比べて圧倒的に初期投資コストが抑えられること、リスク回避ができることにあります。
例えば、Uber創設者のトラビスカラニック氏が始めたクラウドキッチン社というシェアキッチンとゴーストレストラン支援ツールを提供するスタートアップのWebサイトには、ゴーストレストランを始めるメリットが以下のように記載されています。
この数字だけを見ていると、誰もが気軽に副業としてデリバリー専用のフードビジネスを開業できそうな気がしてきますが、盲点が一つあります。
上記のようにゴーストキッチンやシェアキッチンサービスを提供するプレイヤーが増えたことで、デリバリー専用のフードビジネスを始めるための参入障壁は圧倒的に下がりました。
コロナ禍でYOLO(You Only Live Once=人生一度きり)と考える風潮が強まり、独立起業をしたい思う人が増えたことで、ゴーストレストランを開業したいと思う人の数が全体的に増えていることもこれを後押ししています。
実際、米ホスピタリティ・テクノロジー社の調査によると、2021年には企業ブランドの半数が何らかの形でゴースト、ホスト、クラウドキッチンのコンセプトを打ち出しています。19年に431億ドル(およそ6兆3000億円)と推定された世界のクラウドキッチンの市場規模は、27年には714億ドル(およそ10兆4370億円)に達すると予測されています。
結果として、ウーバーイーツやドアダッシュなどの宅配アプリ上には無数のゴーストレストランが並ぶことになりますが、消費者は宅配アプリで何十分も時間をかけてオーダーをしたくはないため、一番よく知っているブランドや過去に頼んだことがある店舗など、なじみのある店をクリックする傾向があります。
そのため、無数のノンブランドのゴーストレストランが新規顧客を獲得し続けるのは非常に難しく、ウーバーイーツのアルゴリズムが検索結果のトップに自分の店を表示してくれるチャンスに命運を託さなければいけない戦いとも言え、ときには非効率な結果にもつながってしまいます。
そんな中で最近米国で注目されているのが、インフルエンサーが始めた、フードブランドとキッチン所有者をマッチングさせるプラットフォームです。
その代表格が、VDC(Virtual Dining Concepts)というフロリダを拠点に持つ会社です。VDCはレストラン業界で長年の経験を持つベテランのロバート・アール氏によって18年に始められました。
VDCの特徴は、著名なユーチューバーやティックトッカー、有名シェフとタッグを組んでハンバーガーブランドやタコスブランドを作り、キッチンをすでに所有しているレストラン経営者たちとのネットワークを構築し、マッチングできる点にあります。
レストラン側は自社でブランドを構築する必要がなくなり、自分のキッチン機材やキャパシティーに合わせたブランドを選択するだけで良くなるというわけです。いわば、ゴーストレストランのデジタルフランチャイズモデルとも言えるでしょう。
世界で最も稼ぐユーチューバーとされる、ミスター・ビースト氏(本名:ジミー・ドナルドソン)のYouTubeチャンネル登録者数は1億400万人超。フォーブスの公表した「2021年に最も稼いだYouTube Star」にて世界1位、約62億円を稼ぎ、ユーチューバーとして歴代世界1位の年間収入記録を保有しています。
ファンのために島を購入したり、数年前にはクラブハウスでゲスト出演したことで一気にアクセスが集中しアプリがダウンしたりと、特に10~20代の若者に圧倒的支持を得ているインフルエンサーです。そのミスター・ビースト氏が、VDCと提携し作ったのが、MrBeastバーガーと呼ばれるブランドです。
MrBeastバーガーは、彼の膨大な数のファンに支えられ、当初は多くの話題を呼び、驚異的な売り上げを記録しました。最初の四半期で、デジタルマーケットプレースでオリジナルのMrBeastバーガーアプリを通し約300店舗を展開し、100万個のハンバーガーの販売数を達成しました。
このアプリは、iTunesとGoogle Playの両方で最もダウンロードされたアプリとなり、Google検索の「人気トップ5」にも入りました。そして、22年8月には、バーチャルコンセプトからニュージャージー州イースト・ラザフォードのアメリカンドリームモールに初の実店舗をオープンし、多くのファンがかけつけました。
MrBeastバーガーのWebサイトには、「レストラン事業者の皆さまへ」というセクションが掲載されており、「既存のレストランの厨房にMrBeastバーガーを追加しませんか? MrBeastバーガーは、あなたのキッチンで運営する独立したコンセプトを提供するバーチャルブランドで、フードデリバリーサービスを通じてのみ配達が可能です」と書かれています。
実際にVDCのWebサイトを見ると、レストラン事業者が簡単に自分にフィットしたブランドを選べるように設計されていることが分かります。まず、「今あなたの厨房にはどんな機材がありますか?」という質問が掲載されており、オーブン、フライヤー、冷蔵庫などを選択します。
次に、「普段はどんなジャンルの料理を作っていますか?」という質問が提示されます。カフェ、中華、揚げ物、日本食、メキシカン、ピザなどから選択します。
キッチンのサイズや数を入力すると、「あなたにおすすめのブランドはこれです!」と選択肢が表示されるのです。
この方法であれば、既存のキッチンスペースを有効活用して収益アップしてみようと思うレストラン経営者も多いのではないでしょうか。実際に、FoodGodというゴーストバーガーブランドのWebサイトには、以下のようなうたい文句が掲載されています。
・既存の厨房と労働力を最大限に活用
・実行しやすく、収益性の高いメニュー
・スタッフトレーニングの提供
・数百万人の顧客ネットワークを活用
・30日以内に注文を受け始めることができます
VDCのようにキッチン所有者とレストランブランド所有者(またはインフルエンサーやクリエイター)をマッチングさせるプラットフォームは他にも存在します。その一つが、リーフ・テクノロジー(REEF Technology)という会社です。
リーフでは、キッチンだけではなく、駐車場スペースや小道などの空きスペースを有効活用したいと思っている所有者に、ゴーストレストランブランド運営のフードトラックなどの機材を提供して土地活用を支援するというサービスも展開している点が特徴的です。
例えば、リーフとウェンディーズは、米国、カナダ、英国で今後5年間に700のデリバリーキッチンを開設・運営する新たな開発コミットメントを2021年に発表。ウェンディーズのグローバルレストラン開発・採用担当ヴァイスプレジデントのスティーブン・ピアチェンティーニ氏は、「リーフのような企業と提携することで、従来のレストランスペースを運営するための諸経費をかけずに、ウェンディーズを人口密度の高い都市部に進出させることができるのです」とコメントしています。
こうした取り組みにより、厨房スペースや厨房機能がある場所だけではなく、空きスペースを有効活用して不労所得が稼げるというメリットが生まれました。それだけではなく、例えば近所にカフェが全く存在しないエリアに住む人が、持ち家の空きスペースを活用して移動型カフェを展開できれば(しかもその運営は他者に任せて自分はライセンスフィーだけをもらうことができる)地域の多様性やクオリティーも上がる、という利点が挙げられます。
コロナで一気に需要が増えたゴーストレストランですが、その構成要素は目まぐるしい速さで複雑化していることが分かります。
インフルエンサーが自身のレストランブランドを簡単に立ち上げ、アプリやYouTubeでファンに対して集客をすることでゴーストレストランが一気に全国展開できるようになりました。同時に、ブランドを持たないゴーストレストランは淘汰(とうた)される可能性もあります。
また、「空きスペースや空きキッチン、空きスタッフの有効活用」という不労所得を得ることを目的としてビジネスを展開する事業者も増える可能性があります。
今後も多様化するゴーストレストラン業界の動向に注目しています。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2210/13/news057.html
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
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メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
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2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
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※石角友愛の著書一覧
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