パロアルトインサイトCEO石角友愛が、4月からレギュラーコメンテーターを務めているNHKラジオ「マイあさ!」内のビジネスコーナー「マイ!Biz」。
今回は、レギュラー放送4回目の出演回「リモート授業の功罪」というテーマで、リモート授業がアメリカの子供の学力の及ぼしている影響や、石角自身の子育てをしている上での体験談、高校生向けAI人材育成カリキュラム「AIと私」の内容をお話した放送を振り返ってご紹介したいと思います。当日に音源を聴くことができなかった方も、聞いていただいた方も振り返りながらぜひご覧ください。
司会:
アメリカで小学生の学力が大幅に低下したという調査結果が先月発表されました。これには実は、リモート授業が関連しているということが明らかになっています。これについてどう思われますか?
石角:
今年のアメリカの9歳児の平均的な学力が、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する前の2020年と比べて記録的な低下を示したという発表があり、アメリカでも話題になっています。
例えば、 ハーバード教育大学院の研究者が22年に発表した論文によると、特に小学校低学年の子どもたちがリモートの学習中に癇癪を起こして不安になったり、感情をコントロールする能力が低くなったというような報告が出ています。
特にこのリモート授業が増えたことで、小学生のメンタル面、体力の低下も含め、いろいろな意味での学力低下ということが問題視されてきています。
司会:
やはり子供に対するリモートの授業っていうのはデメリットが大きいということですか。
石角:
私の息子も実際にアメリカで幼稚園の年長の1年間をリモートで過ごしたところ、大きく2つの問題を感じました。
まず1つ目が集中力の問題です。やはり先生方は、リモートの中でも飽きないように、画面を通してみんなでジャンプをしようとか、定期的に休憩時間を設けるなど、いろいろな環境を整える努力をしてくれています。しかし、6歳の息子が何時間もタブレットをずっと見続けるという行為自体に限界があるということを感じました。
対面の授業であれば、教室の空気感や、生徒同士の様子から、ある程度の自制心や競争心、社会性などが学べたと思います。そういったものを学ぶ機会が、貴重な子供の1年間が失われたというのはすごく大きな損失かなという風にも思います。
司会:
それ以外にも問題点はありますか?
石角:
リモートの授業だと、先生方が生徒の目を見て、その場で会話のやりとりをしながら、 その時々の思考を問うような実況を行うのが、すごく難しくなります。自分から積極的にズーム上で発言できる子がより当たったり、誰も手を挙げないから、結果的に当てられた子が正解を答えるだけという形骸化した授業の進行の仕方になってしまうこともあるので、教師の一方通行というような形に陥りやすいという側面も一つあるかなと思います。
司会:
集中力が続かないとか、その一方通行になりがちというデメリットを解決する方法はあるのでしょうか。
石角:
特にこの小学校低学年に関して言うと、リモートでやる場合は、例えば2、3人の少人数の授業にすることで、全ての生徒に発言の機会が与えられるような授業の進行の仕方をすることで、より個々の生徒に寄り添った授業を可能としていこうというような動きは少しずつ出てきていると思います。
もちろん、こうした教育の少人数化個別最適化を目指す上で、教員不足などのリソース面での課題もいま問題視されていて、教員に対してもリモートでの勤務を可能にすることで、物理的時間的な制約を受けることが減って、対応のハードルが下がるということも考えられます。この両サイドの点をうまく生かして授業の多様化、個別最適化を進めるという動きも出てきていると思います。
司会:
子供の場合はデメリットの方が多いということですけども、 それより上の年齢、例えば高校や大学などではリモート学習のメリットはありますか?
石角:
そうですね。例えば、早稲田大学が行った調査によると、自分のペースで学習できる 復習に取り組みやすいなど、リモート授業が有益だと感じている学生が多いという調査結果もあります。
特にこの義務教育以降の高校、大学そしてその先に大学院などの学びに関しては リモート授業が拡充することで、より色んな地域に住んでいる方も、自分のスケジュールにあった形で授業が受けられると思います。
司会:
色んな授業を受けられてその可能性を広げられるという意味では良いですね。石角さん自身もアメリカから日本の学生に向けてリモート授業をされたこともあるんですよね。
石角:
そうですね、女子高生に向けてAIの素養を身につけてもらうという授業を設けました。ただ、この時はリモートと言っても生徒が自分の家で、自分のパソコンから授業を受ける形ではなくて、ハイブリッドのモデルで実行しました。我々がアメリカからリモートで参加し、生徒は全員教室にいて そこには現場で授業を進行する役割の講師の方がいて、グループに分かれてプロジェクトを進行し、発表するという形で授業を進行をしたので、100%のリモートではありませんでした。
なので、生徒同士のやり取りから学ぶことや、発言・発表をして学ぶこと、そして先生とのやりとりから学ぶことと、 という意味では色々な形で学ぶ機会を作ったので、ここはうまくいったかと思います。
司会:
対面とリモートの両方の良さを混ぜた形ですね。
石角:
そうですね。女子高生の皆さんにタブレットでAIを作っていただくというプロジェクトベースの授業があったのですが、その時には、現場にはサポート担当者を送り、うまくいかないなど現場ならではの課題をリアルな形の現場のスタッフで解決してきました。
司会:
では、リモート授業の強みという面では何だと思われますか?
石角:
リモートの強みとしては、レベルの高い授業が 世界中どこからでも自分の好きな時間に学習ができる。また、費用も対面に比べて手頃な場合が多いという点もメリットだと思います。また、例えば体が不自由な人ですとか、時間的金銭的な制約がある人も、平等に教育の機会が与えられるという点もメリットだと考えられます。
アメリカの小学校でも過疎地に住んでいる子供だと、車で1、2時間程度運転しないと質の高い教育を受けられないという問題があり、より都心部に質の高い教育が集中してしまう2極化問題が指摘されています。
しかし今はすごく質の高い教育を提供する私立の学校が、リモートで世界中の生徒に対して授業を展開するという動きも出てきているので、インターネットのアクセスさえあれば、世界中どこからでも質の高い教育を受けることができるようになりつつあります。授業料も対面で通うよりは圧倒的に安いため、この「教育の民主化」といったところがリモートをきっかけに進んで行くと思います。
司会:
対面授業が戻りつつある中で、リモートならではの学びは、その中でどのような可能性があるとお考えですか。
石角:
リモートならではの機能を生かした授業というのが、より期待できるかなと思います。例えば、画面共有や、チャット機能などです。
大きな広い部屋で講義を見ていると後ろの方の生徒がプロジェクターの文字が小さくて読めないということもありますが、リモートだと先生の画面が全員平等で見やすくなります。また、発言が苦手な子もチャット機能があることで、自分の発言しやすくなりますので、そういったリモートならではの機能の強みを生かして授業を展開していくことが重要だと思います。
今後は、VRの技術なども浸透すると思いますので、3Dで再現された歴史上の建築物をバーチャル空間まで実際見に行ってみるといった体験をすることで、仮想空間の中で更に深い学びを得られる可能性も秘めています。これからは、リモートならではの面白い、新しい形の教育が確立するといいなと思っています。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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