企業経営においてDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれているものの、まだ未着手の状態の企業も少なくありません。これからDX経営を目指されるみなさまに、世界のDX経営に関するケーススタディを紹介いたします。どうすれば失敗せず、DXを経営に取り込めるかは最初の一歩を踏み出す上で非常に気がかりなポイントだと思います。
そこで、今回は失敗例にフォーカスをあてて紹介し、失敗事例からこそ学べる成功の本質についてもご紹介したいと思います。これからDXを経営に取り入れていきたいと考える経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
DX推進を図るためにはある程度費用を投じなければいけませんが、失敗に終わってしまう可能性もあります。なぜDXは失敗してしまうのか、考えられる3つの要因を解説します。
DXが失敗に終わってしまう要因として、経営層が十分に理解できていない点が挙げられます。経営層が理解できていない状態で、流行っているから「とりあえずDXだ」と旗振りをしてプロジェクトをすすめようとすると、現場が混乱して形だけのデジタル化としてうまくいかないケースも多いです。
DXの推進を図るということは、自社のビジネスモデルや商品・サービスの提供価値を変えなければいけない可能性があることを認識する必要があります。
また、経営層の中には「デジタル化=DX」と認識しているケースも見られます。確かにDXで新しい業務システムに刷新した時に、アナログからデジタルへ移行することも多いです。しかし、単なるデジタル化ではDXとはいえません。DX本来の目的は、ビジネスモデル・風土などの根本を変革し、経営や業務改善を実現することです。この認識が経営層で浸透してなければ、現場がうまく回らず失敗に終わる可能性が高いでしょう。
DX経営を実現させることで何を成したいのかなど、明確な目的が定まっていないことも失敗する要因に挙げられます。プロジェクトを進める場合は、作業時間や人的コストなどのリソースをある程度を投入する必要があります。
また、既存の不要なシステムを適宜、縮小・ストップさせるという合理的な判断も必要となります。こうした最適な判断を行うには、具体的な目的の設定が必須になります。
上記でも少し述べた通り、DX推進には人材のリソースを投入する必要があります。しかし、DXに精通する人材はどの業界・職種でも不足しています。
DXの風潮がコロナ禍をきっかけに急速に発展したことで必要な人材の需要が供給に追い付いていないこと、企業としてDX人材を育成する風土が整っていないことが主な理由とされています。
DX先進国のアメリカでは、数多くの事例が集まっています。今回は世界的に有名な大手企業が多額の資金を投じたにも関わらず失敗しているケースなどを中心にアメリカのDX失敗事例をご紹介します。
Zillowは、不動産情報サイト運営を手がける米国最大の不動産仲介マーケットプレイスです。2006年に創業して以降、米国の不動産情報に関するウェブ検索の約3割はZillowが持つとされ、取り扱う物件数は1億3500万件以上。2020年にはZillowウェブサイトに訪れる毎月のユニークビジター数が3600万人を記録していました。
Zillowは、収益源の多様化を狙って、2018年より「Zillow Offers」というホームフリッピング事業に力を入れていました。Zillowのホームフリッピング事業は、通常の買い手よりも低い価格で購入することが特徴で、その代わり購入手続きが早いことと、全額現金での取引であることが、売り手を引きつける要因となっていました。
ホームフリッピング事業成功の背景にあるのが、2006年に開発された独自の不動産価格予測アルゴリズム「Zestimate」です。Zestimateは、アメリカにある何百万もの住宅査定額のデータを活用し、地域の不動産価格変動や家の属性情報などを教師データとして学習しています。このアルゴリズムを使えば、数カ月後に家の価格がどれくらい上がっているかを、予測することができました。この高精度なAIと、Zillowはアメリカで最大かつ最も信頼できる不動産情報の会社としての地位を確立したのです。
しかし、2020年に入り、不動産業界をパンデミックが襲いました。低金利政策などの影響もあって、市場がインフレ傾向を辿ることになり、予想以上に住宅の価格が上がっていきました。この不動産価格の急騰はZestimateの精度を狂わせました。
高精度なAIモデルの精度に依存し過ぎたことと、事業KPIを正しく持つことができなかったことがZillowの失敗から見る教訓です。
Zillowに関しての詳細はこちらをご覧ください。
世界最大規模の総合電機メーカー・GEは、2015年に40億ドルを投資して「GEデジタル」という約5,500人もの社員を採用して作られた、DXの実行部隊とも呼べる組織を作りました。
GEデジタルでは「Predix」という産業用のIoTプラットフォームの開発と商品化を目的としていましたが、プロジェクトは難航し2019年にはGEデジタルはGEと切り離されることが決まりました。
GEは当初、マイクロソフトのOSのように産業用IoTプラットフォームでOSのポジションを獲得できれば、2025年までに11.1兆ドルもの売上増加が見込めるとも予測していました。
それでも失敗してしまったのは、社内で軋轢が生じてしまったためです。
Predixを事業化するための機能をGEデジタルに集約させ、GEの各事業部に使ってもらうことでデータの収集とAI機能の拡充・改善を行おうとしていました。しかし、Predixの利用についてGE社内から大きな抵抗がありました。従来、GEは各事業部で情報システム部を作っており、レガシーシステムや関連するベンダーとの関係性が構築されていました。また、レガシーシステムと言っても機能性は十分であったため、現場の人間からするとわざわざPredixに移行しなくても良いと考えていたのです。しかも、その後Predixの機能が不十分であることがわかると、なおさら中間管理職からの抵抗が増えていきました。
もう1つの問題点として、GEデジタルの社員がすべて外部から採用したIT畑の人間だらけであったことも挙げられます。GE社内との人脈が欠如しており、事業部の古株社員を説得する力がなかったのです。このような結果から、GEデジタルは、GEと切り離される結果になりました。
DX推進は多くの企業で失敗しているものの、きちんとDX化を進めて成功している企業も存在します。どうすれば失敗に終わらず、成功させられるのでしょうか?最後に、DXを成功させるために必要な視点をご紹介します。
IPA(情報処理推進機構)が実施した調査ではDX化に成功する企業の共通点として、意思決定のスピードが速いことやリスクを取って挑戦していること、多様な価値観を受け入れていること、仕事を楽しんでいることなどがありました。こうした要素は主に企業の文化や社風が大きく影響しています。DX推進を図るのであればまずは経営層自らが正しい知識を身に付け、積極的にコミットしていくことが重要だと言えます。「ITやDXはよく分からないから」と、社員に任せるだけでは現場も混乱してしまうので注意してください。
DX経営を行う上で、まずは明確なゴールや指標を設定することが大切です。DX経営によってどのような問題を解決したいのか、売上をどの程度まで伸ばしたいのか、顧客に対してどのような価値を提供したいのかなど、詳細な内容でゴールを設定しておきましょう。ゴールや指標が明確になることで、検証や評価もしやすくなります。
DX化を進める際は、DX人材の確保も必要となります。しかし、どの業界でもDX人材は不足の状況に陥っているため、外部から確保するのは難しいかもしれません。
もしDX人材の確保がうまくいかない時は、社内での育成や業務委託なども検討してみましょう。様々な手段から導入した場合のメリット・デメリットや予算などを比較しつつ、自社に合った人材確保の方法を選んでみてください。
いくら準備を整え、DX化をスタートさせたとしても失敗する可能性はあります。失敗のリスクを軽減させるために、まずはスモールスタートから始めてみるのがおすすめです。DX経営は全社的に理解を得る必要があるため、中には抵抗感を示す人も出てくるでしょう。しかし、まずはDX経営に理解のある少人数のチームからスタートさせることで徐々に関係者を増やしていき、最終的に大規模な推進へ発展させることで成功率は高まります。
今回は、DXを起点とした経営が失敗する原因について深掘りし、そこから成功させるために必要な視点をご紹介しました。DXはこれまでのビジネスモデルや商品・サービスの価値を一新し、新たな価値を生み出すことが可能です。しかし、そのためには古いシステムから新しいシステムへ移行を伴ったり、会社全体で変わっていく姿勢を持つことが重要です。
今回ご紹介した失敗する原因や事例を参考に、自社はどのようにDX推進を図れば成功するのか、ぜひ考えてみてください。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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