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TikTokが狙うソーシャルコマース市場、競合相手にはアマゾンも- ITmedia寄稿

2022/12/20 メディア掲載実績, ITメディア 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

TikTokの新戦略と、抗戦するアマゾン 奪い合う「動画を見て衝動買い」の市場 – ITmedia寄稿記事掲載

今回は、TikTokが米国で参入し、話題になっているソーシャルコマースについて考察したいと思います。

米TikTokがソーシャルコマースに参入した(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

初めに、ソーシャルコマースとは何かを解説します。ソーシャルコマースとは、SNSのプラットフォーム上においてブランドやインフルエンサーのページから直接アプリ内で商品を販売する形態を指します。

SNSがきっかけで商品を購入したくなった際に、通常ですと見ていたページを一度離れてアマゾンなどのECアプリやブラウザを立ち上げ商品を検索、購入する必要があります。一方、ソーシャルコマースの場合、ユーザーは購買意欲が沸いたその瞬間に見ていたSNSの画面内で商品を購入し、すぐに元のページに戻ってこられる点が特徴です。

つまり、商品の認知・発見・調査・企画・会計という全てのカスタマージャーニーが1つのSNS上で行われるため、一貫性と利便性を伴う新しいタイプのEC体験ができるようになるのです。米国では現在、主にFacebookやInstagram、PinterestといったSNSで取り入れられています。

コンサル大手のアクセンチュアのレポートによると、ソーシャルコマースは今後4年間、従来のEコマースの3倍の速さで成長すると推定されています。そして、2025年までに全世界で1.2兆ドル(約176兆円)規模の市場となり、Eコマースの支出全体の16.7%を占めるようになるだろうとも書かれています。まさに、大きなイノベーションが起こる領域と言っても過言ではないのです。

そして、この大きな市場に参入し、今後けん引していこうとしているのが、TikTokです。

TikTokのECの歴史

ここで、TikTokのEC進出の軌跡を確認したいと思います。

報道によると、同社を運営するバイトダンス(字節跳動)は、まず21年2月にインドネシアでTikTokの電子商取引(EC)機能「TikTok Shop」の運用を始めました。その後今年4月にタイ、ベトナム、マレーシア、フィリピンで、6月にはシンガポールでも運用を開始し、東南アジアで順調に規模を拡大しています。インドネシアでは4月2日から始まったイスラム教の断食月「ラマダン」期間に、TikTok Shopでの発注が493%増加、GMV(流通総額)は92%増加したといいます。

東南アジアで一気に広まったTikTok Shop(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

このようにさまざまなメリットを持ち東南アジアで一気に広まったTikTok Shopですが、欧米での展開には障害があるようです。

TikTiokは英国でも21年末からEC事業のテスト運用を始めましたが、最新のデータによるとインドネシアのTikTok ShopはGMVが一カ月平均2億ドル(約290億円)なのに対し、英国ではわずか2400万ドル(約34億3000万円)にとどまったということです。

というのも、英国ではTikTokはSNSという捉え方がすでに定着しているため、動画の合間に挿入されるライブコマースに違和感を覚える人も少なくないということです。また、安すぎてどこか信用できない・配送が遅い・返品や返金の処理に手間がかかるといった理由でTikTok Shopを敬遠するユーザーも多いようで、やはり商品の発送元である中国との物理的な距離も欧米での展開を難しくしている要因だと考えられます。

しかし、このような課題を乗り越え、ついに今年の11月に米国でもTikTok Shopをローンチさせたと報道がありました。

ABCニュースの記事によると、TikTokは米国展開に際し、今年9~10月の2週間でLinkedInに米国での物流や倉庫関連の求人情報を複数掲載し、アプリを使用する販売者に対応する無料返品プログラムの管理や在庫移動方法の計画、TikTok Shopのフルフィルメント(通信販売やECにおける受注から配送までの一連の業務プロセス全体のこと)を開発および拡大するための候補者を探しているといいます。

また、シアトルの別の求人では、グローバルeコマースチームとグローバル倉庫ネットワークの構築を担当するチームメンバーの採用情報も見受けられたといいます。

これは、同社の米国でのソーシャルコマース進出計画がアプリ上での購入を促すだけではなく、その後の商品の保管、梱包、物流、配達などを含むかなり大規模なものになる可能性があることを示唆しており、まさにEC最大手であるアマゾンに対して勝負を仕掛けていく姿勢とも受け取れます。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2212/19/news019.html

ソーシャルコマースに積極参入のアマゾン

しかし、もちろんアマゾンが何もしていない訳ではありません。実は、現在インド市場を中心に積極的にソーシャルコマースに参入しているのです。

例えば、アマゾンは今年、女性に特化したインドのソーシャルコマース・スタートアップのグローロード(GlowRoad)社を非公開の金額で買収しています。

グローロードは、インド国内において600万以上のリセール業者、2万のサプライヤー、1800万のバイヤー、2000もの都市からなるネットワークを構築しています。グローロードを買収することで、アマゾンは自社の技術、インフラ、デジタル決済機能を活用して、インド国内の数百万人のクリエイター、主婦、学生、小売業者などあらゆる人々が卸売業者から商品を一括購入して直接オンラインで販売できるようにすることを目指しているといい、この買収により、アマゾンはインドのソーシャルコマース市場での足場を固められると期待されています。

また、米国内でも12月上旬にTikTokのような機能「Inspire」をAmazonアプリ内でローンチしました。記事によると、Inspire機能は消費者がインフルエンサーやブランド、他のユーザーが作成したコンテンツから商品やアイデアを探したり、買い物をしたりできる新しい短編動画・写真フィードだといいます。

Inspire機能のサンプル画面。アプリの中の電球のアイコンをタップすると利用できる。なお、この機能は、まず12月上旬に米国の一部のユーザーに展開され、その後数カ月で米国のユーザーに広く提供される予定だ

また、アマゾンでは最近ライブコマース機能を拡充する動きも見られます。

米国では中国ほど浸透していないライブコマースですが、商品を宣伝するインフルエンサーをアマゾンのプラットフォームへ誘致することで、この状況を変えたいと考えているようです。現在Amazon Liveというライブコマース機能を監督している広告部門のヴァイスプレジデントであるWayne Purboo氏も、フィナンシャル・タイムズのインタビューで「ライブストリーム・ショッピングは小売業の未来だ」と語っています

アマゾンのライブコマースページ。有名なインフルエンサーが独自にページを持っている。右側にはリアルタイムで参加者からコメントが出てきており、いいねなどの反応もリアルタイムで画面上に表示される

ソーシャルコマースのメリットを考察

このように急速に広まり、今後ますます成長が期待されるソーシャルコマースのメリットを考察したいと思います。

ソーシャルコマースのメリットは?(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

(1) リアルタイム性・インタラクティブ性

その名の通り、ソーシャルコマースでは、リアルタイムにソーシャルな体験ができる点が魅力です。例えば、離れた場所にいる友人やその他大勢のオーディエンスと一緒にライブ配信を見ながら共通の商品を買いその場でいいねをしたり、購入した商品に関するやりとりや感想をチャット上で配信者・オーディエンスが双方向に行えたりするのは、これまでのECにはなかった特徴です。

ソーシャルコマースでは、ただ物を買うのではなく「みんなで物を買い、盛り上がった体験」も手に入れることができるのです。また、配信側はリアルタイムでユーザーの行動データや購入データが手に入るので、オーディエンスの反応を見ながら話す内容を随時変えていくということも可能になり、より効果的に購買を促せるというメリットもあります。

(2) 衝動性

前述の通り、Amazonなどの一般的なECプラットフォームを利用する場合、ユーザーは商品を購入したいと思うきっかけとなったページやアプリから一度移動する必要があり、この間に購買意欲が薄れる、または別の商品に目移りしてしまうということも少なくありません。一方で、ソーシャルコマースでは動画やライブ配信を見ながらすぐに商品を購入することが可能です。

特に、インスタグラムやTikTok上の動画はどれも面白く、これまでの動画広告よりも短い尺であるため、思わず最後まで見てしまう魅力があり、通常のECサイトよりも衝動的な購買活動を起こしやすい要因がそろっていると言えるでしょう。

(3) 商品販売の民主化

現在のソーシャルコマースで主流となっているのは、すでに存在する商品をインフルエンサーがTikTokやインスタグラムなどのSNS上で紹介して販売するという流れです。しかし、ソーシャルコマースが今後さらに発展することで、インフルエンサー自身がクリエイターとなって自分の商品を売ることが当たり前となる時代が来る可能性は大いにあるでしょう。

以前執筆した記事でも紹介しましたが、実際、世界的に人気のYouTuberであるMrBeast氏も、ゴーストレストランでハンバーガー店を立ち上げ、今では約300店舗まで拡大しているようです。また、若者に人気のインフルエンサーが自分でコスメブランドを立ち上げてソーシャルコマース上で販売し、完売が続出するというようなニュースも多く目にします。

ソーシャルコマースやライブコマースは定着するか?

ライブコマースやソーシャルコマースが中国で浸透した背景に、偽物の商品などがマーケットプレースにあふれていたために何を信用していいか分からない消費者が、インフルエンサーがおすすめするものであれば安心だという意識から消費判断をするようになったという意見もあります。

マッキンゼーのレポートによると、中国では、商品カテゴリーごとに高度な専門性とマーケティングに精通した専門家である「キー・オピニオン・リーダー」(KOL)というインフルエンサーが居て、多くの支持者を獲得しているとのことです。

美容やファッションなど特定の分野では、これらのソーシャルセレブリティが数分で数百万ドルの商品を販売し、一夜にして新商品を流行らせることができるほどだといいます。例えば、TikTokで1300万人以上のフォロワーを持つDoudou Babeというインフルエンサーは、シャネル、ランコム、イブサンローランといった一流ブランドともパートナーシップを結んでいます。

市場の背景は異なるものの、米国のAmazonでも類似商品が溢れかえっており、何を選べばよいか分からない、決断疲れをしている消費者が多いのが事実です。

フォレスターによる21年の調査によると、調査対象となった米国の25歳以下の成人オンラインユーザーの61%が、Webサイトやアプリから離れることなくSNSやクリエイタープラットフォームのネットワーク上で商品の購入を完了したと回答するなど、特に若い世代において、消費活動におけるインフルエンサーの影響力は増しています。

上述のマッキンゼーのレポートによると、米国では2021年に370億ドルの商品とサービスがソーシャルコマース・チャンネルを通じて購入されており、中国と比べると小規模ながらも急速に発展している分野であると言えます。

米国のソーシャルコマース売上高(上段)及びソーシャルコマースがeコマース全体に占める割合(下段)の変化を予測したグラフ(マッキンゼーが21年5月に発表)。22年現在ではeコマースの売上高全体の4.4%をライブコマースが占めると予測されている

使い方を間違えれば、脅威にもなるソーシャルコマース

ソーシャルコマースはカスタマージャーニーを根底から変える可能性があるため、今まで独自の販売チャネルやマーケティングチャネルを構築してきたブランドやメーカーは、今後ソーシャルコマースをどう活用していくか、戦略的に考える必要があります。

前出のマッキンゼーレポートで紹介されている、ブランドのソーシャルコマース戦略における大切なポイントは以下の通りです。

・総合的なインフルエンサーマーケティング戦略を策定すること
・ソーシャルプラットフォーム上で自社アカウントを活用すること
・キャンペーンに実店舗の要素を加えること
・新しいカスタマージャーニーに合わせたECの体制を構築すること
・人気が出るクリエイターやブランドを見いだし提携すること
・ソーシャルコマースに慣れている中国の消費者を対象に新しい機能をテストすること

このように、新しい常識を受け入れ、それに合わせた戦略を模索することで、ブランドは顧客体験をコントロールし、デジタル市場での競争力を高めることができるとレポートでは述べられています。このことからも、ソーシャルコマースが成長するにつれ、アマゾンなどのECサイトで商品を販売しているメーカーやブランドがマーケティング戦略を根底から考え直さなければいけない可能性があるということが分かります。

ソーシャルコマースの成長は、マーケティング戦略に根底から影響を及ぼす(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

今回は中国で急成長したソーシャルコマースやライブコマースが米国市場で浸透するかどうかをTikTokの事例を基に考察しました。

SNSにショッピング機能をつけるだけではなく、物流や倉庫管理、配送までを米国拠点で構築しようとしているTikTokの姿勢から、ソーシャルコマース事業参入の意気込みとその市場の大きさが読み取れます。ソーシャルコマースは、共有性、リアルタイム性、衝動性などに富んでおり、アマゾンで能動的な指名検索を行い商品を購入することに慣れた消費者にとっては消費行動における大きな変化を意味します。

圧倒的な視聴数とエンゲージメントの高さを誇るTikTokだからできるコマース事業に今後も期待したいと思います。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2212/19/news019.html

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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