今回取り上げるニュースは、「静かなる退職」とは異なる「静かなるクビ」が、アメリカのテック企業で増えているという内容です。石角がビジネスインサイダーの連載でも取り上げたトピックで、アメリカの雇用状況の変化が伺えます。テック企業だけではなく、ウォルト・ディズニーも7000人の従業員削減を発表しており、アメリカ全体でこれまでとは違った動きが加速しているのです。
静かなる退職という言葉はよく聞きますが、静かなるクビはあまり聞き馴染みがないかもしれません。これは日本でいう窓際族と同じような意味合いで、どんどん巡業員のやる気を奪いながら追い込んでいき、自ら辞職することを促す手法のことを指します。まさに、新しい解雇のやり方といっても過言ではないでしょう。
アメリカには「Employment at Will(エンプロイメント・アット・ウィル)」と呼ばれる考え方があります。これは「雇用主と被雇用者の雇用に関する希望が一致した時にのみ、雇用関係が発生し、互いに必要としている間だけ雇用関係が維持される」といった意味です。そのため、静かなるクビ自体はそこまで不思議なことではありませんでした。
しかし、これまでとは大きく違う点が1つあります。それは、大企業が静かなるクビを実施している点です。通常、静かなるクビを実施せざるをえない状況は「著しく業績を悪化させている従業員がいる場合」のみでした。それが、大手テック企業で当たり前のように静かなるクビが実施されているのです。このことからも、今回のニュースがこれまでとは違うことがわかるでしょう。
それではなぜ、静かなるクビが実施されているのでしょうか。その背景に、コストの問題が挙げられます。解雇の場合、税金を支払わなければならなかったり、失業保険を用意しなければいけなかったり、様々なコストがかかるのです。それに対し、静かなるクビで従業員が自主退職した場合はコストはかかりません。ここに、解雇を選ばない理由が隠されています。
また、問題は金銭面でのコストだけではありません。1万人規模の大規模なレイオフを行う場合、人事部や経営陣でもたくさんのガイドラインを策定する必要があります。それ以外にも、どの部署をレイオフするのか、その組み合わせはどうするのか、といった要素も考えなければいけません。これら全ての手間も、コストに含まれるのです。
これまでの「静かなるクビ」とは異なる点がもう1つあります。それは、ハイパフォーマンスを出していてもクビになるという点です。これまでは、パフォーマンスの悪い従業員に対して静かなるクビを実施してきました。それが、昨今の大規模なリストラを背景に、ハイパフォーマンスを発揮している人材も静かなるクビを受けているのです。
クビになる人たちの中には、中間管理職などの役職についている人もいます。つまり、これまでの当たり前が当たり前ではなくなっているのです。静かなるクビが話題になる中で、その裏に隠された社会的な変化や実態が浮き彫りになっています。
長谷川はMicrosoftに勤める友人から、いつクビになるかわからないストレスがあると聞きました。これは、従来のように大きなレイオフが1度起こるのではなく、少しずつレイオフが実施されていることによるストレスのようです。いつ解雇されるかわからないストレスは、想像以上に大きいことでしょう。
石角も、一度解雇を宣告されればその次のことについてすぐに切り替えられるため、解雇されるかわからない状態で常に放置される方が辛いと話していました。確かに、解雇されるリスクを常に考えながら生活することは、なかなか耐え難いものです。
それではなぜ、一気にリストラを進められないのでしょうか。それは巨大テック企業であることが理由に挙げられます。テック企業の場合、重要なシステム設計に携わっていた社員がやめてしまった際にそのシステムについて理解のある社員がいなくなってしまうリスクかもしれません。そのため、なかなか1度に大量解雇することができないのです。
巨大テック企業であるが故の苦肉の策なのかもしれませんが、従業員としては不安定な状態を維持されることは大きなストレスになるはずです。静かなるクビの背景には、深刻な問題がまだまだ隠されていそうです。
今週のおすすめコンテンツは、山崎の紹介する「トップガンマーヴェリック」です。
こちらのコンテンツは、アカデミー賞6部門にノミネートされた話題の映画です。アメリカのエリート・パイロットチーム「トップガン」が、かつてない世界の危機を回避する絶対不可能な極秘ミッションに直面するところからストーリーが始まります。全世界が熱狂し、数々の記録を残したアクション超大作となっておりますので、気になった方は是非読んでみてください。
Level 5 #58の実際の音源はこちらからご視聴いただけます。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
毎週水曜日、アメリカの最新AI情報が満載の
ニュースレターを無料でお届け!
その他講演情報やAI導入事例紹介、
ニュースレター登録者対象の
無料オンラインセミナーのご案内などを送ります。