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生成AIの使いこなしが評価軸となる時代に 平井卓也元デジタル相 – 日経クロストレンド連載

生成AIの使いこなしが評価軸となる時代に

平井卓也元デジタル相 – 日経クロストレンド連載

 

ネットやモバイルと同等、あるいはそれ以上の革新をもたらす技術として生成AI(人工知能)が広がりつつある。変化の時代が続く中、トップ経営者や専門家は何を目指していくのか。AIビジネスデザイナーの石角友愛氏がトップ経営者や専門家とグローバルな議論を展開する。今回はITキャリア推進協会の研究会で実施した、元デジタル相の平井卓也衆院議員との対談の様子をお届けする。日米の企業や教育におけるAIの利用や規制の状況、今後社会から求められる人材とそこにつながる教育などについて議論した。(対談は2023年7月18日)

元デジタル相の平井卓也氏(右)とパロアルトインサイトCEO(最高経営責任者)でAIビジネスデザイナーの石角友愛氏(左)が対談した
元デジタル相の平井卓也氏(右)とパロアルトインサイトCEO(最高経営責任者)でAIビジネスデザイナーの石角友愛氏(左)が対談した

日本企業に広がるAI活用、一方で規制の策定には難しさも

石角友愛氏(以下、石角)平井議員には2021年6月、初代デジタル改革担当大臣として連載の初回にご登場いただきました。現在は自民党のデジタル社会推進本部の本部長として、AIやWeb3(ウェブスリー)に関する首相への提言など精力的に活動されています。そのご活躍ぶり、米国からまぶしく見ておりました。前回の対談からの約2年間でChatGPT(チャットGPT)の登場をはじめ、AIを取り巻く環境は大きく変化しました。

平井卓也議員(以下、平井)まさにそうですね。日本ではAIを業務で活用する企業が増えています。今後はAIを使いこなす企業と、そうでない企業の差が広がっていくと考えています。

石角 私もそう思います。ビジネスでAIを導入した場合、翌日に成果が出ることはまずありません。それに導入時は現場の反発が起きやすく、その後も定着にまた別の壁が立ちはだかります。それらを乗り越えるためには、最低でも半年はかかるでしょう。それを考えると、今AIを導入する企業と半年後に導入する企業では、機会損失や先行者利益といった点から大きな差が生まれるはずです。ですので私は企業の皆さんには、ぜひ早めに積極的にAIを使っていただきたいと思っています。平井議員は、日本企業がAI導入を進めていくべきだとお考えですか。

平井 ええ、私も企業にはどんどんAIを使ってもらいたいと思っています。一方で、AIの規制についてもきちんと考えなければいけません。今はEU(欧州連合)が先行する形で議論が進んでいますが、規制というのは口で言うのは簡単でも、実行するのはかなり難しい。ともすると「テクノロジーを使ってはならない」という話にもなりかねません。ただ問題点というのは利用していく中で見えてくることも多いため、今はまず使ってみて、その過程で人権侵害や人の命に関わる領域で問題点が判明した場合には、ガイドラインを策定しようという流れになっています。

石角さんがいらっしゃる米国のAI規制の状況もぜひ教えてください。

平井卓也氏。デジタル庁発足前にデジタル改革担当大臣などを歴任し、2021年9月1日、初代デジタル大臣に就任。デジタル庁の基礎をつくった
平井卓也氏。デジタル庁発足前にデジタル改革担当大臣などを歴任し、2021年9月1日、初代デジタル大臣に就任。
デジタル庁の基礎をつくった

石角 米国ではやっと具体的な議論が始まったところで、まだ統一された方針はありませんね。そのため教育においては、AIを積極的に使っていこうとする推進派の学校もあれば、州として学校での使用を禁じている保守的な学校もあるなど、ばらばらです。

ただ今の時代、たとえ規制をしたとしても、まったく使えないようにするのは無理です。そこで中学生など若い世代の方々を模擬議会のような場所に呼んで、「AIを社会で正しく使うためにはどういう法律が必要か」というテーマで話し合ってもらうなど、子どもたちを巻き込んだ取り組みが始まっています。

AIのリスクをきちんと伝えずに使用を許可するのではなく、頭ごなしに禁止するのでもない。みんながある程度納得できるラインを見つけるため、一緒に考えようという事例が出てきています。

平井 とても興味深いですね。AIとの向き合い方、規制を考えるうえで、AIネーティブの世代の意見を聞くのは大事なプロセスだと思います。

「嘘をつく」生成AI、リスクの理解が重要

石角 AIの活用については様々なメリット、デメリット、リスクが指摘されており、世界で大きな議論を呼んでいます。平井議員は実際にChatGPTを使っていて、これらの点についてどのようにお考えですか。

平井 ChatGPTは自分が理解している分野で活用する場合には、素晴らしいツールだと思います。ただ平気で嘘をつくことがあるため、あまり詳しくない分野で使うことには相当なリスクがある。「物知りだけど、平気で嘘をついてしまう人」と認識して、割り切って使うことが大事だと思いますね。

石角 とても分かりやすいですね。そうやって割り切ることは大事だと思います。今のChatGPTでは、回答に対する“自信度”のようなものは表示されません。そのため「嘘をついている」のか、そうではないのか、見極めが難しいと感じます。企業が専門外の領域でChatGPTを使う場合には、「専門家の意見を仰ぐ」「重要な意思決定の場ではChatGPTの回答をうのみにしない」といった、ルールを定めておく必要があると思います。

米国ではChatGPTを授業で導入し、家庭教師のように活用している小学校があるのですが、生徒には「プライベートな情報は入力しない」というルールをきちんと伝え、画面のチャットボックスにも常に表示させているそうです。先生や親がモニタリングできる機能もあるそうです。

とはいえ、ルールがあっても人間はミスをする生き物です。ミスは起こるという前提の下で、それをできるだけ回避するようなUI(ユーザーインターフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)が求められると思います。

平井 教育現場での利用については日本でも議論が進んでいて、23年7月には文部科学省が生成AIの学校での取り扱いについて、暫定的なガイドラインを公表しました。具体的には読書感想文などのコンクールでAIが作った文章をそのまま使うのはよくない、といった内容なのですが石角さんはご存じですか。

石角 はい、ガイドラインは読みました。ただ「AIを使ってつくったものではない」という証明は「AIを使ってつくった」の証明よりも難しいと思っています。もし生徒がChatGPTを使っていないのに使ったと疑われた場合、精神的ショックは計り知れませんし、学習モチベーションの低下も心配です。

それに「使った・使っていない」の議論というのは、本質的ではありません。生徒の気持ちや学習意欲に寄り添った指針、またそれが実行されているかを確認できる仕組みをつくることは、別次元の難しさがあるのだなと感じました。

「生徒の気持ちや学習意欲に沿ったAI指針が必要」と指摘する石角氏。ITキャリア推進協会の研究会で、平井氏と対談した
「生徒の気持ちや学習意欲に沿ったAI指針が必要」と指摘する石角氏。ITキャリア推進協会の研究会で、平井氏と対談した

創造性の時代に合わせた脱・平均点教育

石角 AIが日本の教育現場にもたらす影響について、平井議員はどのようにお考えですか。

平井 ChatGPTの登場によって、社会の評価軸は変わると考えています。これまでは、何でも知っていて平均点が取れることが“良”とされてきました。ですが今後はAIを使って新しいアイデアを生み出せること、AIをクリエイティブに使いこなせることが評価されるようになるでしょう。そういう人材の育成につながる教育が求められていくと思っています。

石角 同意見です。ChatGPTを中心としたAI時代には企業の採用基準が変わり、求められるスキルセットも大きく変わると思います。

シリコンバレーで最も有名なアクセラレータ「Yコンビネータ」をつくったプログラマのポール・グレアム氏は「生成AIの登場により、今までエンジニア80人で作っていたものが8人でできるようになる」と発言しました。人とお金の潤沢なリソースがなく、80人ものエンジニアを集めることが難しかったスタートアップにとっては大きなチャンスが生まれるでしょう。

エンジニアとして社会で求められる人材の条件そのものが変わってくるはずなので、今までと同じような仕事や勉強の仕方をしていては生き残るのが難しいということも示唆していると思います。

平井 その通りだと思います。これからの時代、プログラムを書くという作業はAIと共同で行っていくことになるでしょう。日本では20年から小中高校で順次プログラミング教育が始まっていますが、プログラミングの知識がまったくなければ、書いたプログラムに間違いがあっても気づけません。そのためプログラミングの基礎を学んでおくことは重要です。ただエンジニア自身がゼロからプログラムを書くことは、この先なくなっていく気がします。

石角 その点についてはエンジニアの危機感は強く、私も「AIの登場で仕事がなくなるのではないか」と心配する声をよく聞きます。シリコンバレーでは、数年前まではエンジニアは高収入が保証されていて「歩く金」と呼ばれていました。

ところが最近はGAFAM(アップルやマイクロソフトなど米国のテック大手)をはじめ、各社がエンジニアの解雇を進めています。経営者たちが、どこまでならエンジニアの数を減らしても生産性が維持できるのか、試しているのではないかと思うほどです。そうなってくると、特定の言語しか扱えないエンジニアよりも、トレンドに敏感で、新しいものを素早く柔軟に取り入れるエンジニアの方が重宝されるようになるでしょう。もう「エンジニア=安泰」ではなくなってきています。

(後編につづく)

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00509/00045/

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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