現代のプロサッカーは、極めて高いレベルで戦術が重視されています。ピッチ上に11人の選手を配置し、相手チームを攻略するための作戦を立てることが勝利のカギとなります。戦術の良し悪しが試合の行方を大きく左右するため、監督やコーチ陣は常に優れた戦術を編み出すことに重点を置いています。そんな中で注目されているのが、AI技術の活用です。AIは人間の識者では見つけづらいサッカーの法則を発見し、新しい戦術の可能性を切り拓くことが期待されています。
本記事では、Google DeepMindとリヴァプールFCが共同開発した「TacticAI」という、AIを活用した革新的な戦術分析アシスタントについて紹介します。TacticAIはコーナーキックに焦点を当て、数理的アプローチによって効果的な戦術を見つけ出すことができます。サッカーの世界に新たな可能性をもたらすこのシステムの概要と、その技術的な特徴、実践的な価値について解説していきます。
論文データ:
今回のディスカッション対象の論文をご紹介します。
- タイトル:TacticAI: an AI assistant for football tactics
- 著者:Zhe Wang, Petar Veličković, Daniel Hennes, Nenad Tomašev, Laurel Prince, Michael Kaisers, Yoram Bachrach, Romuald Elie, Li Kevin Wenliang, Federico Piccinini, William Spearman, Ian Graham, Jerome Connor, Yi Yang, Adrià Recasens, Mina Khan, Nathalie Beauguerlange, Pablo Sprechmann, Pol Moreno, Nicolas Heess, Michael Bowling, Demis Hassabis & Karl Tuyls
- URL:https://www.nature.com/articles/s41467-024-45965-x#Sec8
近年、データ科学と機械学習の進歩により、スポーツの世界でもデータドリブンな意思決定が重要視されるようになってきました。サッカーにおいても、試合中に発生する膨大なデータを分析し、戦術の策定や改善に役立てようとする動きがあります。その一方で、相手チームの戦術パターンを特定し、それに効果的に対応する戦術を開発することは、非常に複雑で困難な作業です。
今回GoogleのAI専門部門、Google DeepMindと手を組み、サッカー戦術を専門に分析するAIシステム「TacticAI」の開発に携わったのがリヴァプールFCです。リヴァプールFCは、イングランドの強豪サッカークラブで、日本人の遠藤航選手がメンバーの一員として活躍しています。そのリヴァプールFCは、データを活用したサッカー戦術の先駆けとしても評価されています。この取り組みは試合における戦術的な優位を確保するために、データと機械学習の力を最大限に活用しようとするものです。
TacticAIは、特にコーナーキックに焦点を当てたAIアシスタントです。コーナーキックは、ゴールへの直接的なチャンスを生み出す場面であり、効果的な戦術が求められます。既存のプレイデータから学習し、相手チームの戦術パターンを識別し、それに基づいて、より成功確率の高いコーナーキック戦術を提案します。
具体的には、プレイヤーの位置取りや動きを最適化し、シミュレーションを通じてその効果を予測します。データとAIの力を借りて、試合の流れを読み解き、より戦術的なアプローチを可能にすることで、サッカーというスポーツの理解と楽しみ方が深まります。
TacticAIでは、サッカーのコーナーキックのシーンをグラフ構造で分析する技術を核としています。(下図、参照)これにより、プレイヤー間の相対的な位置や動きを含む複雑な情報を総合的に理解し、洞察を提供します。主に予測モデルと生成モデルから成り、前者は特定の戦術的アクションの発生確率を予測し、後者は予測に基づき最適なプレイヤー配置を生成し提案してくれます。
TacticAIの開発においては、ジオメトリックディープラーニング(幾何学的深層学習)の応用が特に重要な役割を果たしています。この技術は、サッカーピッチの幾何学的な対称性を利用して効率的に学習することで、少ないデータからでも精度の高い戦術提案を可能にしました。
また、開発の過程では、リアルな試合データを基に正確な予測を行うこと、そして生成された戦術の現実性を確保することが主な課題となりました。これらの課題は、リヴァプールFCの専門家との連携により解決していきました。AI開発の現場と、特定の分野の専門家との知識と経験を組み合わせることで、AIの精度を向上させると同時に、戦術提案の実用性を高めることに成功しました。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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