「次々と新しい技術が生まれるAI時代を生き抜くためには、4年に1度程度の学び直しが必要になる」。AIビジネスデザイナーの石角友愛さんはこう言います。では、どのようにすればいいのか。石角さんは求められる人材像と学び直しの方法に焦点を当てて『AI時代を生き抜くということ』(日経BP)という本にまとめました。書籍の一部を編集して紹介します。
1回目と2回目では、AI時代に求められる人材像「π型人材2.0」と、そこを目指して自分のスキルを増やしていく「LEARN+Aステップ」を解説しました。今回からは自分の保有しているスキルを可視化して把握するE(Evaluate)のステップを解説します。
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教育サービスを手掛けるグロービス(東京・千代田)は、2022年10月に20〜34歳の若手社会人の学びに関する実態調査の結果を発表しました(ここでの「学び」とは広い意味で現在および将来の仕事・業務に関連するもの、ビジネスのスキルアップに関係するものなどを指します)。それによると、多くの若者が学ぶ必要があると考えているものの実践できていない「学びの迷子」である実情が浮き彫りになりました。
さらに「学びを実践できていない」と回答した人を調べると、図4-1で示しているように、学びがうまくいかない理由として「時間がないから」「お金がないから」に次いで、「自分にとって必要な学びがわからない」「自分が何を学びたいかがわからない」「どの学習から手を付けるべきかわからない」という回答が多いことがわかりました。
ここで言われる「学びの迷子」になってしまう理由は、自分がもともと持っているスキルを評価できていないことも一因です。そもそも自分がどんなドメインスキルを持っているかを認識できていなければ、そのドメインスキルと相乗効果をもたらすスパイクスキルを探すこともできないからです。
自分のドメインスキルを土台として、リスキリングによって掛け算の効果を生み出すためには、現在のスキル自体を把握している必要があります。
そのために行うステップが、「Evaluate=自己の評価」です。これは、今の自分のスキルセットを客観的に見直し、言語化し、明示化する作業です。π型人材の「π」の文字で言えば、向かって左側の脚、つまり現段階における自分の強みであるドメインスキルを見つける作業になります。
ひとくちに自分のスキルを把握するといっても、さまざまな方法が考えられます。ここでは、過去の職歴をベースにチャットGPTなどAIの力も使って、基礎的なスキルであるソフトスキルを可視化する方法を紹介したいと思います。
実績や経歴から、強化すべきスキルや、スキルのギャップを特定することが可能になります。デジタルツールを駆使して、より効率的に自身のスキルセットを理解し、成長の方向性を明確にしていきましょう。
これまで培ってきた自分のスキルを評価するのは、口で言うほど簡単なことではありません。過去10年、20年、30年の経験をまとめて、突然「あなたのスキルセットを教えてください」と言われても、戸惑ってしまうでしょう。
そこで、自分のスキルを見える化できるようにする「スキルセットツリーマップ」を紹介します。
スキルセットツリーマップを作る手順は以下の通りです。
みなさん、これまで働いた会社名や務めた役職名までは簡単に書けると思います。難しいのは、その役職を遂行するための主業務をリスト化する部分ではないでしょうか。
そこでまずは、役職ごとに具体的な業務を細分化していきましょう。スキルと考えてしまうと難しい人は、スキルという言葉をいったん忘れて「この業務を行うために必要なタスクは何だっただろう」と考えると、わかりやすいと思います。
ここでは営業の人を例にスキルを棚卸ししてみましょう。
今回はクラウド経由でソフトを提供するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)のサービスを、企業向けに販売する営業の人を想定しました。仮定として挙げる具体的な業務は、次の3つになるでしょう。
これ以外にも、会社の規模によっては、契約におけるペーパーワークの説明をする仕事もあるかもしれません。
仮にこの3つが主業務だとすると、①の営業先の候補を絞るタスクに関して必要となる基本的なスキル(これを「ソフトスキル」といいます)は何だろうと考えます。世の中に「ここに営業に行けばいいですよ」といった誰でも使えるリストなど存在しないので、自分で候補を見つけなくてはなりません。そこで必要となるスキルについて、「これはリサーチスキルではないだろうか……」「②の営業先にアポを取る仕事のために必要なスキルは、◯◯ではないだろうか……」というように、仕事の内容を分解しながらスキルセットのツリーを埋めていきます。
こうしてみると、営業のスキルとは単純に「汗をかいて、門前払いを食らっても諦めない根性」といったスキルではないことが確認できると思います。現在のビジネスパーソンが持っている営業スキルは、実は「データを活用するスキル」や「コミュニケーションスキル」が中心になっているということがわかるでしょう。
このように、役職からタスクを洗い出す作業を行いながら、どのようなスキルが身に付いたのかを書き出していくのです。
次に、スキルセットツリーのサンプルを示しました。ひとまずこれを参考にしながら、みなさんもこれまでの職歴を基に、自身のスキルを棚卸ししてみてください。
しかし、自分でゼロからスキルを棚卸しするのは難しいと感じる人もいるかもしれません。そこで、今回はチャットGPTを使って整理する方法を伝授します。
ここではドメインスキルの棚卸しを、チャットGPTを使って行う際に役立つプロンプトを紹介したいと思います。
プロンプトというのは、チャットGPTなどの生成AIに対する命令や質問のようなものです。職種が違えば効果的なプロンプトも変わりますので、あくまで参考として捉えてください。
また、今回は有料版の「ChatGPT Plus」を使用しています。無料版でも作業のプロセスは変わらないので、一度試していただければと思います。
(『AI時代を生き抜くということ』第4章 リスキリングステップ② 『E』(Evaluate)ドメインスキルを評価する より再構成)
https://reskill.nikkei.com/article/DGXZQOLM168A70W4A510C2000000/
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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