【前編】マイクロソフトはなぜAI時代に躍進したのか

　「プレゼンの神」澤円氏

– 日経クロストレンド連載

変化の大きい「AI時代」を生き抜くには何が必要なのか。米シリコンバレー発のAI企業パロアルトインサイトCEOの石角友愛氏が、ビジネスの第一線で活躍する経営者や専門家との対談を通して「AI時代を生き抜く」を提示する。今回の対談相手は元・日本マイクロソフト業務執行役員で、「プレゼンテーションの神」としても知られる澤円氏。マイクロソフト変革の歴史や、AI時代における意識の転換方法について議論した。（対談は2024年5月29日）

世界の大きな変化に合わせてすべてをリセット

石角友愛氏（以下、石角）　澤さんはマイクロソフトで20年以上勤務し、「プレゼンテーションの神」と称されるなどご活躍されていました。2020年に退職し、独立されましたが、どのような背景があったのですか。

澤円氏（以下、澤）　大きなきっかけは新型コロナウイルス禍ですね。20年2月に父親が亡くなり、3月にはロックダウンで当時勤めていたテクノロジーセンターに通勤できなくなりました。人生の大きなターニングポイントともいえる状況に直面し、「これはキャリアをリセットするよい機会かもしれない」と考え、退職を決めました。

石角　そういう経緯だったのですね。変化が重なったときに、ただ悲観するのではなく、リセットを選ぶというのはなかなかできることではないと思います。

澤　私のキャリアを振り返ってみると、世界で何かしらリセットが起こったときにキャリアを変えていることが多いんですよね。例えばインターネットの登場です。私は大学卒業後の1993年、IT企業に就職したのですが、経済学部出身でITの知識はほぼゼロ。だからエンジニアとしては全然使いものになりませんでした。

ところが、ちょうどそのころにインターネットの波がやってきたんです。テック業界の人間として世界がつながる瞬間に立ち会い、「これは絶対インターネットに詳しくなっていたほうがいい」と直感的に思いました。

そこで自腹でパソコンを買い、ネット回線の契約をし、ひたすらネットサーフィンをして自分なりに勉強しました。その後外資系のIT企業がどんどん日本に進出し、「インターネットで世界が変わる」と強く感じるようになり、97年にグローバルで事業を展開していたマイクロソフトに転職しました。

石角　世界の大きな変化の波をとらえてキャリアを積んでこられたのですね。97年のマイクロソフトの姿が想像できないのですが、当時はどのような会社でしたか。

澤　ベンチャー企業のような雰囲気でしたね。日本での売り上げの9割はソフトウエアなどのリテールが占めていて、エンタープライズ（大企業）向けの製品開発・販売を始めたばかり。法人向けのセールスやサポートを担当していたのはわずか百数十人で、CEO（最高経営責任者）はまだビル・ゲイツ氏が務めていました。

石角　黎明（れいめい）期のマイクロソフトを知っているというのは、ある意味貴重ですね。その現場にいたら、わくわくしそうです。

CEO交代で風通しのよい組織へ。マイクロソフトに起きた変化

石角　その後ゲイツ氏からスティーブ・バルマー氏、サティア・ナデラ氏へとCEOは代わり、今マイクロソフトはとてもいい状態にあります。その間、社内ではどういった変化が起きていたのですか。

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