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トランプ新政権が米テック界に与える影響は?「日本のエンジニアも対岸の火事ではない」- エンジニアtype記事掲載

2025/03/14 お知らせ, メディア掲載実績 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

トランプ新政権が米テック界に与える影響は?
「日本のエンジニアも対岸の火事ではない」
– エンジニアtype記事掲載

巨大テック企業の経営層がずらりと集結したことも記憶に新しいトランプ大統領就任式。早速、DEI(ダイバーシティ&インクルージョン)撤廃や、AI開発企業に対する規制緩和に乗り出している。

新政権誕生に伴い、米テック企業ではどんな動きが出てきているのか。働き手であるエンジニアの働く環境やキャリアにどんな影響を及ぼすのか。それらは日本へも波及するのか。

シリコンバレーでAIスタートアップを経営するパロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナーの石角友愛さんに、エンジニアが直面する課題や今後の影響について、現地企業の動向を踏まえて解説してもらった。

AI関連企業にとってトランプ新政権は追い風

ーートランプ新政権の発足によって、米テック企業には今後どのような影響がありそうでしょうか。

テック企業の中でも特にAI関連企業は、さまざまな機会に恵まれやすくなると思います。

先日バリで開かれたAIサミットで、米副大統領のJ・ D・ヴァンス氏は「私はAIのセーフティ(安全性)ではなく、オポチュニティ(機会)の話をするためにここに来た」と発言しました。

これまでのAIに関する議論は、安全性やリスク、人権保障、倫理といった話題が中心でしたが、今後はビジネスの機会をいかに創出するかという話題にシフトするべきであり、アメリカはその中心的な役割を担うという趣旨です。

実際にトランプ大統領は就任の翌日、オープンAIのサム・アルトマンCEOやソフトバンクグループの孫 正義会長と記者会見を開き、AIのインフラ整備を進める方針を発表しました。さらに米国内のAI関連事業に77兆円規模の巨額投資を行うことを明らかにし、この分野への資金流入は着実に増加しています。

さらに、イーロン・マスク氏を中心としたAI・テクノロジー関連の人事も注目に値します。昨年12月には、元PayPal COOのデービッド・サックス氏がAIおよび暗号通貨担当のホワイトハウス特使に任命されました。彼はマスク氏と非常に近い関係にあると言われており、今後マスク氏のビジョンがアメリカの政策に強く反映されることは避けられないでしょう。

ーーイーロン・マスク氏については、政府効率化省の動きも話題になっていますね。

そうですね。例えば、彼が率先して推進している「リモートワークの廃止」は、政府内にとどまらず、民間企業にも波及する可能性があります。またDEIの廃止も、マスク氏が進める効率化施策の一環と言えるでしょう。この動きに対しては、政府の方針に倣いDEIの廃止を表明する企業と、従来の方針を維持する企業の二極化が進んでいます。

DEI廃止/縮小する企業

Meta
DEIに関する複数施策(採用面、サプライヤー選定など)を廃止する方針を発表
Amazon
DEIに関する施策を段階的に廃止する方針を発表
Google
DEIに関する採用目標を廃止し、DEIプログラムを段階的に縮小する方針を発表

DEI注力を宣言した企業

Apple
誰もが最高の仕事ができる帰属意識のある文化を創ることを目指す、と強調
Microsoft
DEIへのコミットメントがお客さま、パートナー、世界の最も複雑な課題に対する変革的なソリューションを生み出す、と強調

トランプ大統領のDEI廃止宣言に対し「待ってました」と言わんばかりに同調したGoogleやMeta。反対に「DEIはやめない」と強調したAppleやマイクロソフト。それぞれの会社が主張を明示した点に、その会社の政治的スタンスが見てとれます。

シリコンバレーに拠点を置くテック企業はイノベーションや多様性と親和性の高いリベラルな思考を持ったエンジニアが多く、経営側も多様性に配慮した施策を積極的に打ち出してきた経緯があります。このままDEI廃止が広がれば、マイノリティグループに属するエンジニアたちが、報酬の高い技術職で成功するために必要なサポートと機会へのアクセスが減少し、不利になる可能性がないとも言えません。

ただ、DEIプログラムの有無が優秀エンジニアの採用やリテンションにどこまでポジティブな影響を及ぼしていたのかも不明な点が多いため、DEIプログラム廃止に対する不安の声は現状ではあまり大きくないように見受けられます。

いずれにせよ「国や企業にとって直接的な利益につながる取り組みが優先され、企業イメージの向上といった間接的な利益にとどまる活動は優先順位が下がる」そんな流れが今後一般化していくと考えられます。

ーー今後米テック企業が直面し得る問題としては、どのようなものがありますか。

中国企業との向き合い方は大きな課題となるでしょう。対中関税を引き上げ輸入抑制したり、中国に生産拠点を持つ米国企業が本国へ拠点を移す場合の優遇策を講じたり、米国は中国企業に対してさまざまな政策を打ち出していますが、これは自動車メーカーに限らず幅広い業界に影響を与えるものです。

例えば、NVIDIAの高性能GPUは対中輸出規制が行われていますが、その結果中国でDeepSeek(ディープシーク)のような代替技術が生まれました。中国は高性能なGPUが輸入できなくなったことにより、自分たちで開発することも検討しなくてはならなくなかった。その結果、中国国内で安価かつ効率的なGPUの研究開発が進み、イノベーションが促進されたと言えます。

こうした状況下において、アメリカでは中国発のLLM企業にいかに対応するかが問われています。政策的な視点だけでなく、企業としてどのようなビジネスの選択をするかも重要になると思います。

またトランプ政権は「ソーシャルメディア上の言論の自由」を繰り返し強調しています。メタはこれに倣い、第三者機関によるファクトチェックプログラム廃止を発表しました。

今後は投稿内容の判断を特定の第三者機関に委ねるのではなく、そのプロセスをより民主的に運営しようとする動きが強まる可能性があります。SNSなどの言論プラットフォームを運営するテック企業は、この変化に留意する必要がありそうです。

業務の効率性が今まで以上に評価される時代に

ーー米国のエンジニアはどのような備えをする必要がありますか?

キーワードとなるのは「適応力」と「柔軟性」です。先述したように、政府効率化省の「無駄をなくす」動きが民間企業にも波及すれば、効率的に仕事ができるエンジニアはより高く評価されるようになると思われます。

人材の流動性もさらに高まりそうなので、自分自身のスキルを磨きつつ、今まで以上にアピールしていく動きも求められます。

ーー「効率的に無駄なく」仕事ができるエンジニアとは、具体的にはどういうことでしょうか?

例えば「リモートワークの廃止」には反発の声もありますが、エンジニアとして仕事の機会を広げたいのであれば、ある程度の出社は避けられないかもしれません。

すでに多くの企業が、フルリモートではかえって業務効率が下がることに気付いています。米国ではフルリモートを許容する企業が大幅に減少しており、リモートワークにこだわるエンジニアは、今後選択肢が狭まる可能性が高いでしょう。

また、業務を効率的に進める上では、AIツールなどを適切に利用できることも大切です。

ーー日本企業の場合、業務でAI活用をしようとすると安全性の観点から“待った”がかかってしまうこともあり、なかなか導入が進まないジレンマもありそうです。

そうですね。日本では、個人レベルでChatGPTを利用する人は多いものの、企業としての導入はまだ限定的だと言われています。一方、アメリカでは、Fortune 500(フォーチュン500)にランクインしている企業の92%がChatGPTなどを活用しているという調査結果があります。

AIツールを柔軟に活用できる環境があるかどうかによって、生産性やビジネスチャンスに大きな差が生まれるのは間違いありません。

実際、DXの成果についても、アメリカ企業の8〜9割が「成果を実感している」と回答しているのに対し、日本企業は6割にとどまっています。日米に3割の乖離があるのは、AIツールの活用率も大いに影響していると思います。

ーーなぜアメリカの企業はAI導入にためらいがないのでしょうか? 日本だと“懸念”が先にきてしまい、導入が進まない企業が多い印象です。

アメリカとはいえ、全ての企業がAI導入に果敢なわけではありませんよ。ただ、アメリカでは「成果を生むためにAIを使っていこう」と目的意識が明確で、具体的な成果を出すことを重視している企業が多いようには感じています。

「政策が180度転換する」リスクも

ーー国内のテック企業やエンジニアに対しては、トランプ政権下のテクノロジー関連政策がどのような影響をもたらすと思いますか。

AIや暗号資産の分野では、規制緩和とイノベーションの促進が明言されており、日本のエンジニアにとっても新たなチャンスが生まれやすくなると思います。アメリカ市場の活性化に伴い、米国のテック企業が日本に拠点を設けたり、採用を拡大したりする可能性も高まるでしょう。

一方で移民政策の厳格化により、就労ビザの取得が難しくなることが懸念されます。そのためフリーランスやリモートワークなど、柔軟な働き方を視野に入れることも重要になりそうです。

またテック業界全体への投資拡大により、AIや半導体関連の日本企業にもポジティブな影響が及ぶと考えられます。

ーーリスクとして認識しておくべきことはありますか。

トランプ大統領とイーロン・マスク氏というリーダーの組み合わせを考えると、「ある日突然180度政策が転換される」可能性は否定できません。とはいえ、とりわけイーロン・マスク氏に関してはテクノロジーとの向き合い方に関しては一貫性があり、M&Aの規制緩和による技術革新の加速やAIスタートアップへの支援拡大など、テクノロジー分野の投資は引き続き活発になることが見込まれます。

したがってエンジニアは、政策の大きな変動を過度に恐れるよりも、新たなチャンスをいち早く察知し、今後訪れる可能性のある機会を逃さないようにスキルを磨き続けることが大切だと思います。

文/一本麻衣 編集/玉城智子(編集部)

https://type.jp/et/feature/27997/

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事及び東京都AI戦略会議 専門家委員メンバーに就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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