2022年で創業100周年という節目を目前に迎える「東京急行電鉄」(以下、東急電鉄)。渋谷や二子玉川などの再開発を進め、地元住民や行政と一体になり「利便性向上」を考えた街づくりが好評をよび、活気をもたらしています。
2018年4月から現職を務める東急電鉄の髙橋和夫取締役社長に、東急グループのこれからとAI導入について話を伺いました。
髙橋:当社は、昔から鉄道や小売などを通じて地域の方の課題を解決しながら一緒に育っている会社です。それは今後も変わっていかないと思います。一方で、さまざまな事業を行っているのですが、どれもその業界では2番目とか3番目のものが多いのです。いずれはそれぞれの業界でトップになれるような企業の集まった、本当の意味での企業グループにならないと力が発揮できないと思っていました。
そこで社長に就任してすぐにデジタルマーケティングに注力するようにしましたが、もう少しスピード感が出てくると良いと思っています。
石角:アメリカではAIは新しい電気と捉えられています。日本でのAIは街角で流行っているようなスイーツのような流行りの一つという風に思っている方もいるかもしれませんが、インターネットや電気のようにそれがなかったらビジネスができない、そんな存在になっています。データで見てもアメリカのAIの企業浸透率は約40%、日本は1~5%ということであまりにも差が開きすぎているなと感じています。
髙橋:データは現在では、ガソリンや石油にあたる重要な資源と思っていますが、実際ビジネスの中でそのデータを活かせているかと言ったら、そこまで取り組めていないのが現実です。どのようなことがこれからの当社に必要でしょうか。
石角:データも生データはそのままでは金銭的な資産に落とし込めないので、精製する必要があります。処理をして使えるものに変える、転化する、昇華する必要があります。
最初のビジネスの戦略に反映させ、どう新しい価値を創造するかというところに落とし込んでないと意味がないと思うのです。そういったデータの使い方をまず習得することが大切です。
どんな小さなことでも成果が出た事例があると、周りもこういうことなんだなと腹落ち出来るようになります。
髙橋:どうしてもまだAIというと、何か大きなことが出来るのではないかと考えてしまって、力が入ってしまう。まず試してみて、そして何に使うか、どのように収益化するか、小さくても始めることが大切ということですね。
石角:AIは局所的な課題を解決するために導入されるべきだと思っています。ビジョンは大きいけれども、最初のスタートは小さく「ビッグビジョンでスモールスタート」って私は言っていますけど、それがAI導入における大事な成功要因だと思います。
AmazonもAWSというクラウドサービスを作るのに20年かかっているんですよ、一朝一夕ではできないんです。何十年のビジョンに基づいて技術に投資するのは本当に素晴らしいことだなと思います。
髙橋:私共がビジネスで本格的にAIを活用していくために、アドバイスを頂戴できるとありがたいのですが。
石角:東急グループは地域全体のデータをお持ちだと思いますので、プライバシーの問題も艦みながらデータ化していくと、ほかの会社が得られない発見ができるのではないかなと思いました。
いつも私は「日本企業はビックデータじゃなくスモールデータを活用することで成長できる」と言っているのですが、それぞれはたくさんではなくても、それらを掛け合わせることができるのは大きなチャンスだと思います。持っているデータも生活に関するものであったり、行動、商品という購買に密接に関係してくるものなので、興味深い知見が得られるのではないかと思います。
高橋:それは、何を買ったかということだけではなくて、何を買って喜んだかどうかということですよね。
石角:そうですね。エンゲージメントですとか、何回リピートしたかとか、行動様式に関するデータはすごく大事ですね。必ずしも統合する必要があるかどうかわからない、というのも本当にまさしくその通りだと思っています。
髙橋:多摩田園都市も開発がスタートして60年となり、リデザインが必要な時期が来ています。できればありきたりでない工夫をしたい。そこに住んでいる方も生き生きする、我々らしいことを考えたいと思っています。
また、交通インフラというベースな部分もしっかりしなければいけないですね。視点は違いますが、メンテナンスのような部分は結構人手がかかるものです。AIの故障予測などの活用なども含めて簡単にできるようになればいいなと思っています。
髙橋:石角さんは、日本の中小企業へのAI普及を積極的に進められていますが、その意図はどのようなところにあるのでしょうか。
石角:日本は99.7%が中小企業なので、中小企業に支えられている部分が多いんですね。今までは大企業で、技術的な力がある会社が、AI導入を積極的にしている例というのはたくさんありました。しかし、それだけでは取り残された人がたくさんいるというのを感じていました。
そういう人に対してのAIをカスタム寄りに作る会社がなかったので、導入率を10%、20%にどうやって増やすかっていったときに、間違いなくその層を攻めないと数字は変えられないと思ったのでそこにこだわっています。
髙橋:当社は小さな事業が集まった、労働集約型の会社です。その面で、現場単位の小さなところから取り組んでいくことで会社としては持続的に成長できるのではないかと思います。
石角:本当にその通りで、それも単純なボトムアップではなく、ある程度ボトムアップでやって、トップダウンとのすり合わせをすることで大きな相乗効果が生まれます。知識の共有化ができるとさらに良いですよね。
石角:「AIが仕事を奪う」などという話もありますが、AIに仕事を奪われる心配をする前に、まずは人の仕事を奪うくらいにAIが身近にならないといけないですよね。
今後、当たり前にAIを使いこなす時代になったとして、確かになくなる仕事はあるとは思います。しかしそれが悪いニュースかというと必ずしもそうではない部分もあると思います。
AIが自分の仕事を奪うかもしれないという恐怖におびえて何もしないよりも、そのAIというものを導入して、AIを使いこなせる人材を一人でも多く育てるということが大事なのではないかなと思います。
髙橋:おっしゃる通りだと思います。AIやIT人材がいないから採用しようとしてもなかなか前に進まない現状があります。我々もやると決めたら、そこは乗り越えていかないといけないということですよね。
石角:それに併せてデータ環境もそろえないといけないですね。GAFAがなんで年収3000万、4000万のエンジニアを雇ってもあそこまでの利益を出せるのか。
例えばFacebookでは、社員一人当たりの売り上げが1億とかで、非常に効率的に回っているんですよね。そこには、ビッグデータの環境とインフラがあるから。それくらいデータサイエンティストが楽しんで仕事ができる環境がある。
髙橋:そういう意味で、専門の方と会話ができる社員がいないと困るのです。社内にも専門の方と会話できる人がいて、外の会社とアライアンスを組みながら仕事を進めていくことが必要です。自前でやるというのは限界が見えていますから。
石角:外部と連携する中で、御社の中で、データサイエンティストであったりAI人材であったりも一緒に育成されることもありますしね。
例えば当社のクライアントさんの話ですが、AIプロジェクトを進める中で、その会社さんのメンバーの中には、自分もデータサイエンティストとして学びなおしているという50代の社員の方もいます。これこそすごい相乗効果、AI導入の大きな副次的効果の一つですね。
石角:やはりビジョンは大きいけれどもスモールスタートで、期待値のコントロールをすることですね。何をもって正しい期待値とするかはAI導入にとって非常に大事なので。あとはプロジェクトの選定と効果検証も重要です。社内に対して大きなメッセージになるプロジェクトを選んで、効果検証をしていくとプロジェクトも成功に近づくのではないかと思います。
髙橋:インターネットが世の中に広まっていった時代に、「インターネット使いますか?」などといったレベルではなかったですからね。AIに接しないで次のビジネスには進めないと思っていますから、どの事業でも新しい視点も入れていかないといけない。積極的に、当たり前のこととして進めていくことが大切だと思っています。
本日はありがとうございました。
石角:こちらこそお招きいただきありがとうございました。